(※写真はイメージです/PIXTA)

EC市場で圧倒的な強さを誇るAmazon。その勢いはとどまらずドローンや自動運転事業における物流や在庫管理のアップデートを行い、事業競争力を強化しています。EC市場におけるAmazonの優位性構築の手法をみたうえで、異業種であるモビリティ産業への参入戦略をみていきます。

 

物流業界の垂直統合でゲームチェンジを狙う

ここで改めて、アマゾンが自ら物流システムを構築した意義を別の角度から考えてみたい。他の多くのEC事業者は、物流を宅配業者に委託している。一般的には委託した方が効率的だからだ。しかし、アマゾンはECから物流までを一気通貫でデータ管理することで物流の効率化を図ることに成功した。

 

アマゾンにおける物流のような、他社に委託するのが当たり前だと考えられていた産業は他にも多く存在する。インフラ的な通信、金融、エネルギー、保険などをイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれない。

 

このような産業を本書では「ファンクション産業」と呼ぶことにする。アマゾンがECで充実させてきたシステムをクラウドサービスとして展開しているAWSも、ファンクション産業の一つと言える(図表3)。

 

出所/筆者ら作成
[図表3]ファンクション産業を取り込み、他産業に展開するアプローチ 出所/筆者ら作成

 

ファンクション産業は多くの業界と接点を持っており、必要不可欠な産業である。そのため、規制がある場合も多く、参入障壁は高いが、そのおかげで旧態依然とした体質が残っている場合も多くある。

 

アマゾンのデジタル接点確保によるデータと、徹底的な自動化オペレーションによる物流産業のアップデートを見ると、まさにDXがもたらすイノベーションで既存産業の破壊が起きる可能性があることを示しているように思える。

 

同様にモビリティ戦略で成功を収めるテスラにとテスラと比較してみよう。テスラのエネルギー産業は、まさにファンクション産業である。自動車産業から見ると、燃料はガソリンスタンドから供給されるものであって、自動車メーカーが石油の精製自体を行うことは望外のことだった。

 

しかし、テスラは、自らEVを製造したうえで完全に車のデータをコネクテッドでコントロールし、必要な電気を発電し、急速充電インフラやバッテリーを整備しながら、電力の需給関係の最適化までを担おうとしている。エネルギーというファンクション産業を取り込んだビジネス戦略を描いているように思える。

 

アマゾンとテスラが、ファンクション産業を取り込む際に共通しているのが、膨大な顧客接点からファンクション産業まで一気通貫でデータを取得し、バリューチェーン全体にテクノロジーを導入しながら垂直統合的なDXを実現している点である。ファンクション産業を取り込むと顧客接点は広がり、より多面的なデータを取得することが可能となる。顧客はシームレスな体験を享受できるし、コスト削減も可能となる。

 

これまでは顧客接点や顧客体験の重要さを中心にビジネスでの優位性を説明してきたが、このファンクション産業へのアプローチに着目すると、また面白いビジネス戦略が見えてくる。

 

ファンクション産業を押さえると、他の業界でも優位性を発揮できるのである。テスラはエネルギー産業を抑えることでモビリティ産業での優位性を強化し、アマゾンは物流を押さえることでECでの優位性を強化した。

 

【参考文献】

谷敏行(2021),Amazon Mechanism( アマゾン・メカニズム) ― イノベーション量産の方程式 日経BP社,2021年11月 Murphy Jr., Bill(2013). “'Follow the Money' and Other Lessons From Jeff Bezos,Inc.com ,Aug 6 2013

 

平山 幸江(2022), 買収から5年、ホールフーズ・マーケットの新店とアマゾンの店舗戦略, JB Press Digital Innovation Review, 2022年6月17日


MARK WILSON(2022), Inside the design of Zoox, Amazon’s quirky, self-driving car, FAST COMPANY, May 2022


ジョン S. トゥーサン(2021),「気鋭のヘルスケア企業「ヘイブン」は、なぜ失敗したのか」,Harvard Business Review, 2021年3月1日より引用


Eli Lilly(2019)’Lilly, Evidation Health and Apple Study Shows Personal Digital Devices May Help in the Identification of Mild Cognitive Impairment and Mild Alzheimer's Disease Dementia’,Aug 8, 2019


木村将之(2021),Deloitte TMT Predictions 2021Tech Giant,2021年4月


木村将之(2021),Deloitte TMT Predictions 2021オンライン診療,2021年4月


木村將之(2021),イノベーションの起こし方第9回「Amazonに学ぶ」,電気新聞, 2022年3月28日

 

 

木村 将之

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

シリコンバレー事務所パートナー、取締役COO

 

森 俊彦

パナソニック ホールディングス株式会社

モビリティ事業戦略室 部長

 

下田 裕和

経済産業省

生物化学産業課(バイオ課)課長

 

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※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

2030年の自動車産業を占う新キーワード「モビリティX」――。 「100年に1度」といわれる大変革期にある自動車産業は、単なるデジタル化や脱炭素化を目指した「トランスフォーメーション(DX、SX)」ではもう勝てない。今後…

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