業績は不安定でも起業が楽しいワケ
■「赤字でもストレスはゼロ」起業のススメ、トライする選択
知人のOさんは、15年ほど前、脱サラして起業しました。
大手百貨店や大手不動産会社に勤めていましたが、40代で思い立ち、ひとりで、不動産売買の会社を創りました。創業当初、なかなか赤字体質から抜け出せなかったのですが、「自分のペースですべてやれるので、ストレスがゼロ」と言っていました。会社員時代は、それなりに楽しいと感じていましたが、振り返ると、窮屈で、堅苦しかったそうです。
「くだらない会議に付き合わなきゃならないし、同僚が帰らないから自分も帰れない」
自分の時間を無駄にすることが苦痛でした。
「会社員時代もそれなりに楽しかったが、自分が創った会社はそれを超える楽しさがあるんです。とにかく、楽しい。自由を手に入れた、という感じです」
雇用する社員はいません。社長ひとりで奮闘する会社です。
「大変になるのも、楽になるのも、すべて自分の責任だから、人のせいにしたり、何かに責任転嫁したりすることがない。だから、心がすさんでいくことがない。常に心が健康で楽しくいられる」
業績は不安定なのですが、「楽しい」と言います。
業績が落ち込み、会社継続はもう無理かなと覚悟して頑張っていると、大きな仕事が入る。そんな繰り返しで、なんとか15年、持ちこたえてきました。
これまで、絶望の淵に立たされたこともありました。車を売り、生命保険を解約し、購入したマンションを売却しました。
家族と賃貸アパート暮らしになっても、起業したことに後悔はありません。いくつかのピンチを乗り越えると、「何とかできる」という妙な自信が身に付くそうです。
Oさんはなぜ起業したのでしょうか。子どものころから、自考が始まっていたようです。
神奈川県小田原市で育ったOさんの家庭は、裕福ではありませんでした。親に欲しいものを買ってもらえず、「読みたい漫画を友達から恵んでもらった」と言います。だから中学時代にはアルバイトをしました。
「いつかいい暮らしがしたかったんです」
父親は酒を飲むと「自分は高卒だったから出世できなかった」と愚痴をこぼしていたそうです。
父親の姿を見て、会社員の悲哀を感じ取っていました。小学校の卒業文集には「将来、会社をつくる」と書きました。早くから、自分の力で自分の人生を切り拓きたいと考えていました。
自分で事業を立ち上げ、運営する人生は、目に映る風景がどんなものになるのか、会社員の私には想像がつきません。楽しいと言われると、トライしてみたくなります。一方で、そう簡単にはいかないだろうなと、臆病にもなります。会社員は、組織の中で時には辛酸をなめ、屈辱を味わうこともあるでしょう。一方で社長業もつらいでしょう。
Oさんはこう言います。
「どちらも大変です。どっちが自分に合っているかということでしょうね。私は自分でやる方が心地よかった。気力は常に満タン状態。まだまだやります」
会社から会社の価値観を押し付けられ、会社の評価に縛られる生き方よりも、自分で会社の使命や理念を構築し、自分の価値観を創り上げる方が楽しい。Oさんを見ていると、そんな気にさせられます。もっと日本人は起業に挑戦していいと思います。
マイクロソフトを立ち上げたビル・ゲイツさん。アップルを創業したスティーブ・ジョブズさん。松下電器を築いた松下幸之助さん。起業し、イノベーションを起こすことに成功した人は、起業にトライし、イノベーションにトライした人だけです。トライした人だけが、道を拓くことができます。
トライしない人は、夢を実現することはありません。自分の夢をどこまで実現できるのか、それにトライする人生は、きっと楽しいでしょうね。リスクはあるし、不安も大きい。でも、トライする人が多ければ多いほど、新しい事業、新しい世界が実現する確率も高まるでしょう。
大勢の人がトライする社会は、きっと明るく、たくましく、楽しい。トライするのかしないのか。自考してみれば、答えは自ずと出るのだろうと思います。
岡田 豊
ジャーナリスト
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