認知症とうつ病は見分けがつきづらい
私は認知症は病気ではなく、老化現象のひとつだと考えています。ですから、長生きすれば認知症になるのは当たり前のこと。個人差もありますし、あまり悪く考えていては、そのほうが心に悪影響を及ぼします。普段の心がけによって、ある程度、予防したり、進行を食い止めることだってできます。
学者や弁護士のような、知的な職業に就いていても、実は認知症だったということもあります。これは、積み重ねてきた学習や専門領域については忘れないために、問題が生じづらいことによります。
政治家でも認知症にかかっているということだってあります。
例を挙げてみましょう。
アメリカのレーガン元大統領は、退任後数年後にアルツハイマー型認知症を発症したことを公表しています。発表した時には、まともに会話が通じなかったことや、この病気の進行速度などから考えると、在任中から軽度の症状はあったはず。
それでも、レーガン大統領は経済面や外交面等で、その後の自国や他国の世界に大きな影響を与えるような仕事をしていました。多少乱暴な言い方をすれば、軽度の認知症であるならば、大統領のような重責さえ務まってしまうのです。
認知症の初期であれば記憶力が低下する程度の話。誤解している方もいますが、いきなり家族の顔がわからなくなるということはありません。「認知症になっても大丈夫」という気持ちも大事です。
■とにかく怖い老人性うつ
認知症よりも、私が精神科医として強く警鐘を鳴らしたいのは、老人性うつ病です。老人性うつ病は、認知症よりもよっぽど怖い。
うつ病は、いろいろなことを悲観的に考えてしまいます。
うつ病になると、疲れやすい、気力が出ない、物忘れが増える、眠れない、食欲が湧かないといった症状が現れます。そして、その症状も悲観的に捉えがちです。
例えば、物忘れがひどくなっていくと「私は認知症になってしまったのでは」と不安になっていきます。
はっきりと分かる、うつ病の症状だけでなく、気分が落ち込みやすいという症状まで含めると、65歳以上の1割から2割の方が、これに悩んでいると言われています。決して少ない数字ではありません。
認知症とうつ病は見分けがつきづらいものがあります。
私は、来院した方に対して、はじめに次のような2つの質問をします。
「ちゃんと眠れていますか?」
「食欲はありますか?」
この問いかけに「眠れてはいるんですけれど、夜中に何度も目を覚ますんです」と答える方は、うつ病の可能性が高いと診ています。なぜなら、うつ病からの不眠は、寝つきがわるい「就眠障害」よりも、眠りの浅い「熟睡障害」のほうが多いためです。
食欲に関しては、「何を食べても美味しくありません」「最近、食が細くなりました」とおっしゃる場合は、うつ病の可能性が高いと診ます。
以下に、ご自身でもできる、うつ病を早期に発見するための簡単なチェック表を用意しました。これらの項目のうち2つ以上当てはまり、その状態が2週間以上続いている場合は、うつ病、またはうつ病に近い状態になっているかもしません。できるだけ早く精神科を受診ください。
□食欲が落ちてきて以前より食べものがおいしく食べられない
□憂うつな気分が続く
□何をやっても楽しくない
□疲れやすい
□熟睡できない
□イライラが続く
□必要以上に自分を責める
□自分は「価値がない人間」だと思う
先に書いたとおり、認知症の場合は、自分がボケてきたという自覚もなくなり、進んでいくと多幸感を得やすいと言えます。
それに比べて、うつ病はつらいものです。本人がつらい状況をはっきりと自覚しています。つらい状況に悲観的になり、不眠に悩まされ、妄想に取りつかれる場合も。さらに自責の念や罪悪感にさいなまされれば、自殺願望にさえつながってしまいます。
和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長
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