(写真はイメージです/PIXTA)

インフレや金融政策動向が見通し難いなか、米国経済の見通しは非常に不透明です。はたして、2023年はどうなるのでしょうか。株式ストラテジストのニッセイ基礎研究所、窪谷 浩氏の分析です。

【経済見通し】成長率は22年が前年比+1.9%、23年は+0.3%、24年が+1.5%を予想

9月の予測時点と同様、今後のインフレや金融政策の動向が見通し難い中で、米国経済見通しは非常に不透明である。当研究所は見通し前提として、22年6月にみられたようなウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料品価格の高騰は回避され、インフレ率は24年末にかけて緩やかに低下、FRBは23年3月以降、政策金利を5%で据え置き、24年1~3月期に利下げに転じるとした。

 

これらの前提の下、既に民間需要の低下が顕著となる中、当研究所はFRBの金融引き締めに伴う金融環境の引締まりから23年初から住宅投資の落ち込みが続くほか、設備投資も減少に転じることに加え、個人消費が大幅に減速することから、23年初から景気後退に陥いると予想する。実質GDP成長率(前期比年率)は23年1~3月期から4~6月期にかけてマイナス成長となるほか、通年(前年比)で23年は+0.3%と22年見込みの+1.9%から大幅に低下しよう(図表5)

 

当面はインフレ率がFRBの物価目標を大幅に上回ることが見込まれる中、FRBはインフレ抑制を景気より優先する姿勢を明確にしているため、金融引締めによる米国の景気後退は不可避だろう。もっとも、足元の堅調な労働需要や、家計のバランスシート、潤沢な家計の過剰貯蓄などもあって深刻な景気後退は回避され、マイルドな景気後退に留まるとみられる*1

 

一方、政策金利の引上げが停止される23年後半は景気が持ち直すほか、24年1~3月期にFRBが金融緩和に転じることもあり、24年は景気回復を予想するものの、成長率は前年比+1.5%と潜在成長率(1%台後半)を下回る水準に留まろう。

 

物価は、前年同月比でみたエネルギー価格の伸び鈍化や供給制約の緩やかな解消などから、24年末にかけてインフレ率の緩やかな低下を予想する。当研究所は消費者物価の総合指数が22年は前年比+8.1%となった後、23年が+4.1%、24年が+2.4%へ低下すると予想する。もっとも、ウクライナ侵攻に伴うエネルギーや食料品価格に加え、新型コロナの影響を受けた供給制約の動向など、インフレを取り巻く環境は依然として不透明であり、インフレ見通しには上振れリスクがある。

 

金融政策は、FRBが22年12月に0.5%の利上げを実施し、政策金利を22年末に4.50%まで引き上げると予想する。23年入り後もインフレ率が依然として物価目標水準を大幅に上回るものの、インフレ率の低下基調の持続に加え、景気後退から2月と3月のFOMC会合で利上げ幅を0.25%に縮小した後、23年内は政策金利を5.0%で据え置こう。

 

FRBが利下げに転じる時期はインフレ率がFRBの物価目標の達成が視野に入る水準に低下する24年1-3月期となろう。FRBはインフレ率の低下基調が持続する中24年は合計1.5%ポイントの引下げを実施し、24年末の政策金利は3.5%まで低下しよう。バランスシートは9月以降、米国債とMBS債の合計で毎月950億ドルの減少ペースを23年内は維持しよう。

 

長期金利はインフレ率の高止まりと来年にかけて利上げが継続されることから、足元の3.5%近辺から22年末に3.6%まで上昇し、22年10~12月期平均では3.8%となろう。また、インフレ率の低下に加え、政策金利の据え置きもあって23年10~12月期には同3.6%まで低下しよう。24年もインフレ率の低下が続くほか、金融緩和に転じることから24年10~12月期に同2.9%までの低下を予想する。

 

【図表5】
【図表5】

 

上記見通しに対するリスクは、インフレ高進による政策金利の上振れと米国内政治が挙げられる。

 

ウクライナ侵攻の長期化により、エネルギー、食料品価格などが再び急騰することでインフレ高進が長期化し、政策金利の引上げ幅拡大や23年以降に引上げペースが再加速される場合には、需要が抑制されることで景気は下振れしよう。

 

一方、米国政治では11月に実施された中間選挙の結果を受けて、来年1月の新議会では上院では与党民主党が過半数、下院では野党共和党が過半数となり、上下院で多数政党の異なるねじれ議会となることが決まっている。

 

米国では法案を成立させるために上下両院で可決する必要ある。ねじれ議会では、与野党の対立からバイデン政権や下院共和党が実現を目指す政策の実現は困難となった。また、深刻な景気後退に陥る場合にも与野党の対立に伴う政治機能不全から迅速な経済対策が策定される可能性も低いだろう。

 

さらに、後述するように来年夏場に抵触が懸念される連邦債務上限の引上げについて、与野党対立から政治問題化し、デフォルトリスクが懸念される場合には金融市場が不安定化し、景気後退が見込まれる米国経済に対してさらなる追い打ちとなろう。

 

*1:詳しくはWeeklyエコノミストレター(2022年7月22日)「注目される米景気後退リスク ー高まる景気後退リスク、深刻な景気後退は回避可能か」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71848?site=nli を参照下さい。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年12月9日に公開したレポートを転載したものです。

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