(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカがサダム・フセイン・イラク大統領の討伐に血道を上げた真の動機は、フセインが中東産油国に対して石油のドル建て制をやめるよう画策してきたことに対する懲罰だとする見方が有力です。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

金融グローバリゼーションはドル覇権

■基軸通貨のもつ意味

 

仮にウクライナ戦争がなんらかの形で終結しても、領土拡張という古典的で粗暴な帝国主義路線をあからさまにするプーチンがロシアのリーダーであるかぎり、ロシアと欧州、米国の緊張関係は続くでしょう。

 

拡大NATOは軍事力のレベルアップを図り、経済面では対露投資、貿易を抑制し、ロシアへの国際金融ネットワークへのアクセスを制限し、エネルギー依存度を大きく減らそうとするでしょう。

 

すると、ロシア経済の苦境は緩和せず、欧州のエネルギー確保も不安定なままになってしまいます。双方にとってマイナス要因だらけです。

 

こうした膠着状態はいずれ解消するのでしょうか。

 

ここで、改めて思うのは、グローバリズムの真実です。18世紀の古典的世界の帝国主義の衝動に駆られた男が、グローバリズムに覆われた世界に乱入してきたのです。もちろん、タイムスリップしたわけではなく、現実を知り尽くし、秘策を用意しています。

 

グローバリゼーションとは金融と言い換えてもよいのです。モノやサービス、ヒトの国境を越えた移動というものはカネに比べるといとも簡単に遮断されてしまいます。モノやサービスのグローバルな自由は米中貿易戦争に代表されるように、自国第一主義で大きく制限されます。経済安全保障の名目でも厳しくチェックされます。

 

ヒトの国境を越えた自由な移動は、もとより受け入れ国のご都合主義の便法にすぎず、新型コロナウイルス・パンデミックで頓挫しました。その点、カネの国境を越えた移動は止めようがありません。そのグローバル金融の支配通貨がドルなのです。

 

ウクライナ侵略で、米欧はロシアの金融機関の多くを国際資金決済ネットワークSWIFTから排除しましたが、ロシアは中国の決済ネットCIPSや、迂回ルートを使います。カネ自体は自由に動き回るのです。

 

金融のグローバリゼーションはドル覇権と一体です。金融覇権はもちろん、軍事力の裏付けが欠かせませんが、古代以来、永遠の輝きを放ちつづける金の支えは無用です。

 

ドルは第二次世界大戦後の国際金融秩序であるブレトンウッズ体制によって、世界で唯一金とリンクされることで、世界基軸通貨となったのですが、金は踏み台でしかありませんでした。基軸通貨とはほかの主要通貨の基準という意味ですが、石油、天然ガスなどエネルギー、金属資源、穀物など国際商品の表示もドル建てということになります。

 

1971年には、米国政府の金を保管するケンタッキー州フォートノックス空軍基地の倉庫が空っぽになりそうになり、ニクソン大統領(当時)が金・ドル交換停止に踏み切りました。いわゆる「ニクソン・ショック」です。

 

それでもドルは基軸通貨の座から降りることはなかったのです。金の束縛から解放されたドルの発行は連邦準備制度理事会(FRB)の裁量に任されます。ドルで表示される証券の発行、売買、相場も無制限ということになります。金融の自由化とビッグバンが始まったのです。ニューヨーク市場とそれに歴史的に密接なつながりのあるロンドン金融市場が急速に拡大するようになります。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

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