(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカがサダム・フセイン・イラク大統領の討伐に血道を上げた真の動機は、フセインが中東産油国に対して石油のドル建て制をやめるよう画策してきたことに対する懲罰だとする見方が有力です。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。


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石油のドル建て制の廃止を画策した

ニューヨーク市場の自由化は1980年代のレーガン政権による規制撤廃で加速し、1990年代のクリントン政権による世界的な金融自由化促進を経て、2000年代には住宅ローンなど借金をそのまま証券化することでさらに飛躍的に膨張するようになります。それがバブルとなって破裂したのが2008年9月のリーマン・ショックです。

 

このときは、ドル覇権もここまでとの見方が国際金融市場で飛び交ったのですが、FRBがドル資金を大量発行して紙くず同然になりかけた住宅ローン証券化商品を買い支え、次いで米国債を大量購入し、ドルの金融市場の安定化に成功しました。米国債はドル建て資産を代表するので、米国債の巨額買い入れはドル価値の保全、引いてはドルが支配する国際金融市場の安定につながったのです。

 

これによりドルは世界の現預金や証券、エネルギー、穀物など国際商品の基準でありつづけ、基軸通貨の座は微動だにしなかったのです。

 

もちろん、ドルは米国の世界覇権を代表します。2003年、当時のブッシュ政権が起こしたイラク戦争は2001年9月11日のイスラム過激派による同時中枢テロ後の反テロ戦争の一環だとされますが、ブッシュ政権の口実はイラクの独裁者サダム・フセインが大量破壊兵器を隠匿しているという容疑でした。しかし、実際にはCIA(中央情報局)にはその証拠は皆無でした。

 

にもかかわらず、フセイン討伐に血道を上げた真の動機は、フセインが中東産油国に対して石油のドル建て制をやめるよう画策してきたことに対する懲罰だとする見方が有力です。

 

フセインは2000年11月に国連の管理下に置かれていた石油輸出代金収入による人道物資基金をユーロ建てに置き換えました。当時、イラク石油輸出を担っていたのはフランスと、同年にプーチンが大統領に就任したロシアの石油会社です。

 

両国ともイラク攻撃に反対したし、フランスはドイツと並ぶユーロの担い手です。フセインにユーロ建てを認めたのは国連アナン事務総長です。英国『フィナンシャル・タイムズ』紙は2002年8月22日付で、サウジアラビア王室はユーロ建て石油輸出を内部で検討している、と暴露しています。

 

フセインのドル離れを放置すれば、ほかの産油国に一挙に石油の非ドル化が広がる恐れがあります。ブッシュ政権として国連は信用できない。ユーロの中心国ドイツやフランスが協力しなくても、単独で懲罰のためにフセインを退治し、サウジアラビアなどほかの産油国を牽制する必要がありました。

 

ブッシュ政権は国連や独仏の反対を無視し、大量破壊兵器保有を口実にフセインを退治しました。イラクを占領したあと、ブッシュ政権はイラク石油輸出をさっそくドル建てに戻すように決めました。

 

イラクの復興を成功させ、サウジアラビアと並ぶ豊富な石油資源を事実上米国のコントロール下に置き、石油のドル建て取引を維持させる。武力を誇示することで、サウジアラビアなどイラク周辺のアラブ産油国のドル離れを断念させる。イラク戦争の狙いはそこにあり、事実サウジアラビアなどはドルへの忠誠を誓ったのです。

 

ところが米国は泥沼にはまり込みました。2003年3月の開戦以来、2008年11月時点でイラクでの米軍死者は4200人を数え、負傷者は3万人を突破しました。イラク戦費の正確な額は国防総省の「テロとの戦い予算」枠で見ると2007年2月まで8000億ドル程度でしたが、国防総省本体の予算とは切り離されているために実態は摑みにくいのです。しかし、コロンビア大学のスティグリッツ教授の推計ではイラク戦費は3兆ドルに上ります。

 

いずれにせよ、ドル覇権の維持のためにはかけがえのない兵士の命と、莫大な国費を投入しても厭わない。それが金融覇権国米国なのです。前述したトクヴィルの『アメリカのデモクラシー』で描かれているような鋤と理性で征服する米国の姿など美化もいいところでしょう。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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