ロシアをSWIFTから排除!それでもロシア経済が平気な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナ侵攻を続けるロシアへの経済制裁として、SWIFT制裁を決めました。ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えないうえに、ロシアの銀行の大半がドルなど外貨の決済や調達ができなくなるのです。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

若きプーチン大統領が見たロシア崩壊

■プーチンとドル

 

プーチンにとって米国のドル覇権によるグローバリズムはロシア帝国再興の最大の障害でもあります。ドルが基軸通貨である以上、石油の相場と資源はドルに依存します。産油国ロシアはドルによって国家財政が左右される。米国はドルを通じて政治的影響力を行使し、ロシアの命運を左右しかねません。

 

1985年にソ連書記長に就任したミハイル・ゴルバチョフは、政治経済の抜本的改革をめざしたペレストロイカ(改革)を断行します。このとき米大統領だったのがロナルド・レーガンで、強いドルと高金利政策をとったために原油価格が下落します。当時、私は日本経済新聞社のワシントン特派員で、石油専門家をずいぶん取材しました。

 

そのなかでわかったことは、レーガンが中東諸国に原油生産の削減をさせないように強いプレッシャーをかけていたことです。供給される量が減らないので原油価格は下がったままで、それにダメージを受けたのが当時のソ連でした。現在のロシアと同様にソ連の収入源はエネルギーだったので、収入を増やすことができなかった。

 

レーガン政権が進める軍拡にも対抗できない。ペレストロイカを推しすすめるためにも資金が必要だったにもかかわらず、収入が増えないために、行き詰まってしまいます。そして、ソ連崩壊につながったわけです。レーガンは原油価格の下落をソ連崩壊に利用し、それが成功したというわけです。

 

ソ連崩壊の号砲とも言うべき、ベルリンの壁崩壊は1989年11月でした。そのとき30歳代半ばのプーチンはソ連国家保安委員会(KGB)の諜報員として東ドイツのドレスデン駐在ナンバー2の座にありましたが、ベルリンの壁を機にドレスデンでも湧き上がる市民の不穏な動きを察知して、機密文書の焼却処分に没頭します。

 

そして1990年1月に帰国後はレニングラード(現・サンクトペテルブルク)で政界に転じて、1999年8月に首相、翌年5月に大統領に就任しました。

 

プーチンはトクヴィルの言う「剣」だけの征服者ではありません。2000年以来、ロシア経済の脱ドルに努めてきました。

 

2000年当時、GDPの50パーセントを超えていた対外債務返済に努め、2007年以降は4パーセント以下に押さえています。対外債務はドル高や金利高で負担が重くなりますが、対外債務の圧縮は利上げショックを和らげます。米国債保有も2010年10月の1763億ドルをピークに減らし、2021年11月には24億ドルまで落としています。

 

公的準備資産のなかで急増しているのは金準備であり、2013年に約400億ドルだったのを、2020年には1400億ドル近くまで積み増ししました。外貨準備資産はドルを人民元に置き換えています。ロシアの対外投資ファンドである国民福祉基金の通貨別資産構成は、2021年1月でドル建てが512億ドルでしたが7月にはゼロとし、6月以降は人民元建て350億ドルの水準を保っています。

 

プーチンは以上のような金融面での布石を打ったうえで、ウクライナ侵攻へと突き進んだのです。

 

侵攻の開始は2022年2月24日ですが、バイデン米大統領による対露制裁第一弾は2月21日です。第一段階は、ロシアが独立を承認したウクライナ東部地域との貿易や金融取引などに米国人が関与するのを禁じるというもので、軽い牽制球です。

 

バイデン大統領は翌日、プーチン政権がウクライナ東部に派兵を決めたことを受けて、ただちに金融制裁を追加しました。ロシアの国営金融機関であるロシア開発対外経済銀行とロシア軍系の銀行に対するドル取引停止です。

 

これに加え、「ロシア政府を西側の資金調達から切り離す」と述べ、ロシアの国債や政府機関債などにいわゆるソブリン債(国債、政府機関債など、各国政府が発行する債権)の米国市場での発行を禁じる意図を表明しました。プーチン大統領側近の政権幹部ら個人にも制裁を科しています。いずれもドルの決済、資金調達、資産市場からの締め出しを意味し、基軸通貨ドルを武器とする対露制裁の事始めということになります。

 

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    産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

    1946年高知県生まれ。70年早稲田大学政治経済学部経済学科卒後、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、2006年に産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)、『検証 米中貿易戦争』(マガジンランド)、『日本再興』(ワニブックス)がある。近著に『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)がある。

    著者紹介

    連載「物価だけが上がり給料は上がらない」最悪の未来は続くか

    本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    日本経済は再生できるか

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    田村 秀男

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