(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアへの経済制裁は必ずしも効果を上げていないようです。通貨ルーブルは急落しましたが、4月以降上昇に転じ、現在は侵攻前の水準に回復しています。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

ロシア経済制裁の抜け道は中国

■ロシアの抜け道


 
西側諸国の経済制裁によってロシアには直接ドルははいってきにくいし、中国を迂回してもはいってこない。そうなると国際取引ができない状況となり、ロシアは追い詰められていくことになります。

 

とはいっても、抜け道がないでもない。ロシアには外貨準備が6000億ドルくらいあり、その約6割は外国の中央銀行にあります。平和な状況では、外貨準備は各国の国債購入に充てられます。国債を買うので証券は手元にありますが、外貨は購入先の国の中央銀行にあります。必要になれば、国債を買い取ってもらえばいいわけで、外貨を預かってもらっているような状態になります。

 

ただし国同士の関係が悪化すると、国債を買い取ってほしいと要求しても断られてしまい、外貨を手元に置くことができなくなります。つまり、「凍結」されてしまうわけです。

 

ロシアの外貨準備のうち一千数百億ドルくらいが、中国の中央銀行である中国人民銀行にあります。中国はロシア制裁に参加していないのですから、ロシアが中国人民銀行に中国の国債を買いとって代金をドルやユーロで払ってくれと要求すれば、中国が応じない理由はありません。

 

この抜け道を使って、ロシアは必要な外貨を手に入れていたはずです。

 

ただ、先ほども述べたように中国としては米国からの二次制裁が怖いので、ロシアの要求に全面的に応じるわけにもいきません。したがって、この抜け道は目立たないようにしています。米国から文句がでない程度に、少しずつ中国はロシアの要求に対応していたはずです。それを米国が知らないはずはなく、知りながら放置している状態だと思います。

 

米国としてはロシアを潰すつもりはないし、土壇場まで追い込んでロシアに核兵器を使われでもしたら元も子もなくなってしまいます。そうならないためにも、中国を使っての抜け道をロシアが利用するのを米国としては見て見ぬふりをしているしかない。

 

しかも、中国に対する金融制裁は国際金融市場の総本山・米国にとって両刃の剣になりかねません。対中金融制裁は中国の金融機関のドル資金調達を禁じることを意味しますが、中国の国際金融でのプレゼンスは大きく、グローバルな金融市場の不安につながりかねないからです。

 

かつて、中国の大手国有商業銀行が北朝鮮への制裁破りに協力したことを摑んだオバマ政権当時の米財務省は対中制裁するかどうか迷い、そのままこの案件をトランプ次期政権に先送りしました。するとトランプ政権もやはり国際金融市場への衝撃を恐れて制裁案をお蔵入りにしました。

 

トランプ政権は、習近平政権による香港の高度自治剝奪や民主化弾圧に対しては、金融機関制裁も辞さない大統領命令権を用意しましたが、行使はしなかった。バイデン政権にはその気配すらありません。ワシントンにとって対中金融制裁は抜こうにも抜けない伝家の宝刀なのです。

 

ウクライナ侵攻から約1ヶ月後の3月23日、ロシアのプーチンはロシア制裁に参加している「非友好国」に対して、天然ガスの代金支払いをルーブルで払うよう要求しました。

 

天然ガス代金はユーロ建てのままですから、ルーブルがユーロに対して暴落すれば欧州側がルーブルで払おうとすれば暴落分だけ多くのルーブルを欧州の金融市場で調達せざるを得なくなります。そうなるとルーブル買い需要が増えるのでルーブル相場は安定してきます。

 

もとより、ルーブル資金の出し手はロシア中央銀行ですが、ルーブル資金の欧州向け供給を絞れば、自ずとルーブル相場はユーロに対して上昇します。つまり、ロシアはルーブル決済にすることで、外為市場の主導権を確保し、ルーブル不安を解消できると踏んだのでしょう。

 

次ページ急落した通貨ルーブルが元に戻ったワケ

本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本経済は再生できるか

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田村 秀男

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