(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシアへの経済制裁は必ずしも効果を上げていないようです。通貨ルーブルは急落しましたが、4月以降上昇に転じ、現在は侵攻前の水準に回復しています。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

急落した通貨ルーブルが元に戻ったワケ

これに対して、欧州側は契約どおりユーロ決済を変えないとし、ロシア側の要求を拒絶し、ユーロで支払っています。しかし、ルーブルで払わなければ天然ガス供給を差し止められる恐れがあります。そこで、ロシアの商業銀行にルーブル払いを代行してもらうことにしました。

 

従来どおりロシアの商業銀行にユーロで送金し、商業銀行がそのユーロをロシア中央銀行に差し出し、中央銀行がルーブルを商業銀行に供給するということです。こうしてもロシアのガスプロムに直接ルーブルで支払う場合と同様、ルーブル需要が増えることになり、ルーブル相場は安定します。

 

さらに、ロシアにとって都合が良いことに、ロシア中央銀行はユーロ資金をフランクフルトの欧州中央銀行に預けないまま、自身で自由に使える外貨準備に組み入れることができます。西側の対露金融制裁は、ロシア側が日米欧の中央銀行に預けている外貨資産を凍結することが柱のひとつになっています。

 

そうなるのは大口の外貨資金はその外貨を発行、管理する当該の中央銀行に預けておいて、外貨決済需要に備える中央銀行間の慣行があるからです。ユーロ建ての大口資金決済は欧州中央銀行、ドル建ての決済はニューヨーク連邦準備銀行、円建ては日銀というふうに、相手国の中央銀行にロシア分の外貨がそのまま預けられていました。

 

しかし、天然ガスの代金はルーブル払いなのだから、もはや欧州中央銀行に預ける必要はないというわけです。

 

天然ガスをはじめとするエネルギーの代金は主にユーロではいってくるわけですから、西側諸国がロシアからのエネルギー輸入を完全にストップしなければ、ロシアに外貨ははいってきます。経済制裁でルーブルの価値は下がっても一時的で、暴落することはない。西側諸国によるロシアへの経済制裁は西側の製品やハイテク供給停止、外資の撤退など効いていることは効いているのですが、ロシアの金融を破壊するほどの力は発揮できていないということです。

 

一方で、中国を使っての抜け道も封じられたわけではありません。ロシア金融制裁をめぐるロシア対米国、欧州の金融ゲームは中国というジョーカーがロシアの手にあることで、ますますプーチン有利に展開しかねません。

 

西側の対露制裁の限界を露わにしたのが今年(2022年)6月末、ドイツで開かれた主要七ヶ国首脳会議(G7サミット)でした。続いてスペインで開かれた北大西洋条約機構(NATO)拡大首脳会議(岸田文雄首相も出席)も同様でした。両会議とも最大の懸案はウクライナへの侵攻を続けるロシア対策ですが、一連の首脳声明は威力に欠けるというのが真相です。プーチン大統領の盟友でロシアの外貨確保に協力する習近平中国共産党総書記・国家主席を押さえ込む意思も見られません。

 

G7声明は東シナ海、南シナ海、台湾海峡での中国の行動を牽制してはいます。NATO共同宣言でも中国の西側に対する挑戦であるとしています。しかし、具体性のない外交上の修辞にはびくともしないのが独裁国家中国ですから、習近平国家主席・党総書記には馬耳東風でしょう。

 

G7首脳が6月28日に発表した共同声明(コミュニケ)にふくまれている対露追加経済制裁の目玉は、海上輸送によるロシア産石油についての輸入価格の上限設定の検討のみです。

 

ジョンソン英首相がサミット前に、ロシア産の金の輸入禁止でも合意したと発表しましたが、コミュニケには「金」のかけらも見られません。英米カナダのアングロサクソン3ヶ国と日本が新たに採掘または精錬されたロシア産金の輸入禁止に近く踏み切りますが、ドイツ、フランスなど欧州連合(EU)は応じなかったのです。

 

石油輸入価格上限設定も「検討」との弱い表現にとどめています。サミット前に日米欧が打ち出した、ロシア産石油の段階的な輸入削減に伴って国際石油相場が上昇すれば、ロシアの石油収入はさらに増えかねないうえに、西側のみならず中低所得国全体の家計を直撃することになります。

 

そこで、ロシア産に限って輸入価格の上限を上回る価格での輸入を禁じるという狙いですが、G7以外の国々は参加しそうにありません。そのため、上限より高いロシア石油を運ぶタンカーへの損害保険の適用を禁じるという案が浮上していると言いますが、苦肉の策で実現性には疑問符が付きます。

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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田村 秀男

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