(※写真はイメージです/PIXTA)

財務省の官僚はプライマリー・バランスが赤字ですから一刻も早くこれを解消したい。だから少しでも景気が良くなったら、あるいは企業収益が増えたら、「消費税の増税をやりましょう」と口説きます。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

間違った経済観が日本を追い込んでいる

■日本の間違い――消費税の増税と国債償還

 

先に「グローバルに開放された経済では、輸出が増えれば国内の設備投資が増え、それに伴い雇用も創出される。その波及効果で国内市場が成長していくことになる。つまり内需は対外貿易抜きには拡大されない」と一般論を述べました。

 

じつはここのところで日本が変調を来たしている点があります。

 

例えば円安導入して輸出が増えたとします。企業収益は伸びます。現下の円の相場水準であれば輸出はもっと伸びる。さらにアメリカのマーケットも最近拡大している。加えて、中国向け輸出も増えると展望できれば、「設備投資しよう」とか「もっと人を雇ってみよう」という企業が国内に出てきます。つまり設備投資や雇用増進のインセンティブが出てくるのです。

 

ところが日本はそういうときに限って消費税の増税をやります。そうしたら企業のほうは「えっ、なんだ。それじゃあ国内の売り上げ、やっぱり伸びないじゃないか」ということになって、設備投資を控えていきます。「やっぱり海外でやろう」と。だから海外シフトばかり進んでしまうのです。

 

こんな初歩的な間違いを、日本はもう延々と繰り返してきているのです。

 

どうしてそうなるのでしょうか。結局、政治家の責任放棄です。

 

財務省の官僚にしてみれば、プライマリー・バランスが赤字ですから一刻も早くこれを解消したい。だから少しでも景気が良くなったら、あるいは企業収益が増えたら、政治家を「もう景気は大丈夫です。心配の必要はありませんから消費税の増税をやりましょう。消費税による税収は社会保障財源に充てますから」と口説きます。

 

政治家も「お、そうだな、そうだな」と乗ってしまう。それで内需を殺してしまうのです。

 

せめてデフレから完全に脱却して、内需の成長がどんどん高まって、物価が需要の増加によって自然に(2%程度)上昇するというふうに、経済が正常化したあとならいいのです。そうなったうえで消費税をきちんと考えてみる。ところがそうなる前に、先食いしてしまうわけです。

 

それから傷に塩を塗り込むように国債の償還もしてしまう。

 

国家には増税があろうとなかろうと税収があります。当然景気が良かったら税収は増えます。ところが、その増えた税収を国民経済に戻さないと内需が冷えるのです。これはすでに基本的な経済理論として証明されています。それにも拘わらず、日本政府は平気で国債の償還をやってしまいます。

 

『日経新聞』がよく「GDP比で国の債務が2倍を超えてます。これは世界でいちばん悪いです」というようなことを書きますが、これが強い強迫観念になっていると思います。

 

私に言わせれば「世界でいちばん悪くて何が悪いんだい?」なのですが……このことを『日経新聞』『朝日新聞』に代表されるマスコミ、経済学者、財務官僚、そして政治家が「大変だ」「大変だ」と延々と言っています。こういう間違った経済観が日本を自ら追い込んでいると思います。はっきり言えば経済観が日本はあまりにもお粗末ということなのでしょう。

 

恐ろしいのは、経済が失速している時代が長いと、皆モノを買わなくなるのが普通になってしまうことです。このままではお金がいくら入ってきても使わなくなります。これでは内需が収縮していくばかりです。

 

若い人たちはほんとうにお金を使わない印象です。たぶんお金を持つようになっても使わない。日本経済の現状では希望的な展望がないからです。これの打開には経済を成長させることが最も効果的なのです。こうしたデフレ心理は25年間も人々に沈殿しており、払拭するためには政府が思い切った財政出動を長く続けるしかありません。

 

次ページデフレ脱却のチャンスを潰す財務省

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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