(※写真はイメージです/PIXTA)

ある資産家の経営者は、自分の家庭を離れ、別の女性と暮らして婚外子までもうけていました。しかしある日、同居女性と暮らす家で心筋梗塞を起こして救急搬送されてしまいます。運よく一命はとりとめましたが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

別の女性の元に走った、資産家経営者

今回の相談者は、60代の会社経営者の吉田さんです。経営する会社を長男に承継させたいそうですが、ある問題を抱えて悩んでいるということで、筆者の元を訪れました。

 

吉田さんは地主の家系の出身で、会社経営の傍ら、複数の収益不動産も保有する資産家です。吉田さんの相続人は、妻・長男・長女・二女、そして婚外子がひとりいます。

 

長男は大学卒業後、一般企業に就職しましたが、吉田さんが経営する会社を継ぐために退職。いまは吉田さんの会社で修業中です。

 

「お恥ずかしい話なのですが、40代になってから、行きつけの飲食店の女性経営者とお付き合いしていまして。ほとんど彼女のところで過ごすようになりました。子どももひとり生まれています」

 

「妻も子どもたちも、私のことは放置です。長男に至っては、会社以外では口もききません。生活費用の口座にお金があれば、私なんか用なしですよ。ただ、娘たちからはたまに連絡が入ります…といっても、お金の無心ばかりですがね。先日は、二女に車を買わされました」

 

筆者が言葉に詰まっていると、吉田さんは話を続けました。

 

「実は先日、〈もうひとつの家〉のほうで倒れてしまいまして。軽度の心筋梗塞でした。彼女が救急車を呼んでくれたのですが、正式な配偶者ではないので、いろいろな手続きができなくて。仕方なく妻を呼んだら、無表情のままテキパキと手続きを進めてくれたのですが、退院のとき、襟首をつかまれ、自宅に強制収容されてしまいました…」

「お父さん、遺言書を書いてちょうだい」

退院後、久しぶりに帰宅した吉田さんが身を縮めながらリビングに入ると、そこには3人の子どもたちが勢ぞろいしていました。ビックリして子どもたちの顔を見渡していると、妻に肩を押され、吉田さんは思わずソファに座り込んでしまいました。

 

「お父さん、遺言書を書いてちょうだい」

 

妻が冷静な声で言い放つと、3人の子どもたちも一様にウンウンとうなずいています。
 

「遺言書…?」

 

「なにとぼけたことをいってるの、心筋梗塞で倒れて、万一のことがあったらどうするの! 浩(長男)に会社を譲るんでしょ? 少しは家族のことを考えてちょうだい!」

放置していては、骨肉の争いに発展の危険性も…

「…というわけで、遺言書を作成したいのです」

 

吉田さんの個人資産の多くは、不動産と会社の株で占められています。そこで、筆者と提携先の税理士は、配偶者の特例を活かしながら長男に財産の多くを相続させるため、不動産と株などの財産を妻と長男が等分に相続し、長女と二女にはそれぞれ現金と収益物件(駐車場)を、認知した子には母親が暮らす家や相当の金銭を贈与してきたため分与はなし、という案を提案したところ吉田さんは納得しました。

 

*  *  *  *  *

 

吉田さんの希望を受け、遺言書作成に着手しましたが、その際、相続人から不平がでないよう、吉田さんには長女と二女、認知した子に事前に了解を得てもらったほか、念のため、付言事項にも心情を書き加えるという、周到な対応を行いました。

 

「先生、ありがとうございます! これで私の会社と不動産は長男に継承してもらえます。今回、妻に多く財産分与をする形になりますが、妻も私と同様の遺言を書くとのことで、その際はまたご相談させていただければ…」

 

もし吉田さんが遺言書を残さないと、吉田さんの妻・妻との間に生まれた子どもたちは、吉田さんが認知した婚外子と遺産分割協議の席につかねばなりません。そのような状況では円満な話し合いになるとは思えません。そのため、遺言書を用意することで「会わない」という選択肢を準備することも大切なのです。

 

また、過去の贈与(特別受益)は相続財産の対象になり、遺産分割の対象となるため、今回のような分割も有効となる点がポイントです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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