(※写真はイメージです/PIXTA)

ある中年男性は重い病にかかり、今後について思いを巡らせていました。20代で両親を亡くし、疎遠だった兄も亡くなり、兄の子どもは名前すらわかりません。そこで、思い切ってある決断をしましたが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

両親は早くに亡くなり、疎遠な兄も10年前に…

今回の相談者は、50代後半の会社員の遠藤さんです。ご自身の相続について悩んでいるということで、筆者の元を訪れました。

 

遠藤さんは地方都市の出身で、大学進学のために上京。卒業後は大手企業にエンジニアとして就職しました。

 

「両親は、私が就職してすぐに亡くなりました。私には兄がひとりいるのですが、疎遠な関係で、両親の三回忌以降は会っていませんでした」

 

遠藤さんは子どものころから、5つ違いの兄と折り合いが悪かったといいます。

 

「じつは10年ぐらい前、姪だという女性から兄が亡くなったと連絡がありまして。葬儀に出て、初めて兄に娘が2人いることを知りました。奥さんの出身地なのか、縁のなかった土地でのこじんまりした葬儀でしたが、とにかく居場所がなくて。他人行儀な挨拶をして、香典を置いて、早々に退散しました」

 

一方の遠藤さんは、もともと内向的な性格で、なおかつ男性ばかりの職場環境だったこともあり、結婚しないまま仕事に打ち込んできました。贅沢な趣味もなく、会社と自宅マンションを往復するばかりでしたが、40歳を前に、自宅近くのショップに勤務する女性と親しくなり、同棲しました。5年くらい一緒に生活しましたが、もともと体の弱い方で、持病の悪化を理由に一度郷里に帰るといい、そのまま亡くなったそうです。

自分が旅立つときの始末を、疎遠な姪には頼めない

「3年ほど前、体調不良で近所のクリニックに行ったところ、精密検査を受けるよういわれまして。大学病院の紹介状をもらって診察を受けたら、がんであることがわかりました。父親と同じがんだったので、もしかしたら、体質が似てしまったのかなと。これまでも何度か入院と手術を繰り返していて、来月もまた手術を受ける予定ですが、今度の手術は根治を目指すものではなく…。それで、自分の今後を少し整理しなければならないと思い、こちらへ伺いました」

 

遠藤さんは、長い間ひとりで仕事に打ち込んできたこともあり、かなりの資産を残しています。法定相続人は、亡き兄の子どもである2人の姪になりますが、遠藤さんには思うところがありました。

 

「兄の葬儀で会った2人の姪に悪い印象などありません。わざわざ私を探してくれて感謝しています。ですが、そのとき初めて名前を知ったほどの疎遠な関係ですし、詳しい連絡先も聞いていません。私が亡くなったあとの始末を頼めるような間柄とは、とても…」

「財産を託したい人が2人います」

遠藤さんには、自分の財産を託したい人が2人いるといいます。

 

「会社の後輩の、佐藤君です。10歳年下で、家庭があって忙しいにもかかわらず、私の状況を知ると、仕事の手助けのみならず、病院の付き添いや手続きなどに手を貸してくれました。身内がいない私にとって、本当にありがたくて…」

 

「もうひとりは、一緒に暮していた優子の甥の健一君です。年の離れたお姉さんの子らしいのですが、早くにご両親を亡くしていて、年の近い優子になついていたんです。とても明るいいい子で、よくマンションに遊びに来てくれました。彼が車を出してくれて、3人でよく観光地に出かけたものです。あの頃は本当に楽しかったなぁ…。優子が亡くなったあとも、落ち込む私を気にかけてくれて。この間も電話をくれたばかりです。彼には預金の一部を渡したいのです」

遺贈したい2人に気持ちを伝え、手続きに着手

筆者と提携先の税理士は、遠藤さんに遺言書を作成するようお勧めしました。きょうだい(甥姪)には遺留分がないため、遺言書があれば揉めることはないのですが、相続人でない人に自分の財産を遺贈する場合は、それに加えて、遺贈したい人の住民票が必要です。

 

筆者と税理士が「一方的に遺言書を書いておくのではなく、事前に、佐藤さんや健一さんに自分の意思を伝えて了解をしてもらっておくほうがスムーズですよ」とお話ししたところ、遠藤さんは深くうなずき、「2人に話します」と答えました。

 

*  *  *  *  *

 

数週間後、遠藤さんから連絡がありました。

 

「2人に事情を話しました。2人ともすごく驚いて、最初はひたすら固辞していましたが、私が熱心に頼みこんだら、最終的にOKしてくれて。それぞれ住民票も預けてくれました」

 

筆者と税理士はその連絡を受けて安堵し、早速遺言書の作成に着手しました。遺言執行も佐藤さんに託すことになり、これで遠藤さんの不安はなくなりました。

 

「疎遠な親族へ機械的に遺産を渡すのではなく、手を貸してくれた身近な人へ感謝の気持ち代わりに託したい。無事に手続きができて幸せです」

 

遠藤さんは穏やかな笑顔を見せてくれました。

 

今後の日本では、遠藤さんのように単身のまま暮らす人が増えてくると予想されます。また、親族との付き合い方も昔とはかなり変化しています。

 

もし成り行きに任せて法律に則った手続きを行うと、どういう結果になるのか、そしてそれは自分にとって本意なことであるのか、いま一度考えてみることが必要かもしれません。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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