5―世界的なエネルギー争奪戦の勃発
しかし、ここにきて日本のLNG調達に暗雲が立ち込め始めている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア産天然ガスに依存してきた欧州各国がロシア以外の新たな調達先を模索し、世界的なエネルギー資源の争奪戦が始まったのだ。
エネルギー資源の国際価格は高騰し、売り手としてのカタールの立場はこれまでになく強くなっている。これまで良好な関係を築いてきたとはいえ、足元でシェアを落としてきた日本に、カタールがかつてのようにLNGの供給を約束してくれるとは期待できない。事実、日本勢の交渉は難航を余儀なくされているとの報道にも接する。
こうした中で、日本はLNGの安定供給に向けて、民間企業だけではなく、政府も前面に立ってカタールと交渉をしている。経済産業省の担当官はNHKの取材*17に、「ドイツやイタリア、中国、韓国もみんなカタールのLNGを獲得するべく交渉に来ているが、われわれ日本としてもそこは負けられない」と述べた。国営エネルギー会社Qatar Energyとの交渉の結果「(『対話の用意はある』という回答を引き出したが)何故に長期契約を結ばなかったのかということについて、まだ納得していない感じだった。日本だけ特別扱いするわけにはいかないということだと思う」とも明らかにした。
また、2022年9月に実施された、「LNG産消会議2022*18において、カタールのエネルギー担当国務大臣は挨拶の冒頭、「正直申し上げて、もはや主要なLNG供給者でなくなった今、日本で開催されるLNG関連の会議で講演をするのは違和感がある」と述べ、LNGを巡る両国間のすきま風の存在を隠さなかった。
カタールは今後、ノースフィールドガス田の拡張を計画している。先行するノースフィールドイーストの出資者には、欧米の国際石油会社*19が名を連ねる。増産分は欧州とアジアに半分ずつ輸出される計画である。
*17: NHKウェブサイト 「LNGクライシス 日本の液化天然ガス調達はどうなる?」2022年9月2日配信(2022年9月26日閲覧)
*18:経済産業省等が主催し、LNG産出国と消費国の閣僚や企業が会する国際会議。2022年で11回目。
*19:仏TotalEnergies、伊Eni、米ConocoPhillips、米ExxonMobil、英Shellが、Qatar Energyと共同出資する。国際石油会社はマイナー出資であり、カタール側が主導権を持つ。