増え続ける「相続人不存在」
相続人がいないことを理由に国庫へ帰属する遺産が増加している。
最高裁判所の司法統計によれば、2022年度(令和4年度)決算ベースで国庫に帰属した相続財産の総額は約1,292億円に達し、10年前と比べておよそ3倍の規模に拡大した。
また、相続財産清算人(旧・相続財産管理人)の選任申立ても増加傾向が続いており、2023年(令和5年)には約6,948件に上っている。
これらの数字が示しているのは、「相続人不存在」がもはや例外的な出来事ではなく、日本社会の構造変化を背景に広がる現象となっているというのが現実だ。
国庫帰属までの手続の流れ
相続人がいないからといって、遺産が直ちに国のものになるわけではない。相続人不存在が確定すると、遺産はいったん「相続財産法人」という法的枠組みに置かれ、家庭裁判所が選任する相続財産清算人の管理下に入る。
清算人は、債権者への公告を行い、財産を換価し、債務を弁済するなどの清算手続を進める。そして、相続人や特別縁故者がいないことが確認された場合に限り、残った財産が最終的に国庫へ帰属する。国庫帰属は一連の手続の終着点であり、自動的に生じるものではない。
背景にある社会構造の変化
相続人不存在が増加している背景には、単身世帯の増加や未婚率の上昇といった人口動態の変化がある。法定相続人が存在しない、あるいは事実上疎遠になっているケースが確実に増えている。
さらに、財産の質の変化も影響している。老朽化した実家や利用価値の低い土地、借金を伴う不動産など、「受け継ぐこと自体が負担」となる財産が増えたことで、相続人がいても相続放棄が選ばれる場面が目立つようになった。その結果、引き受け手のいない財産が制度の終着点へと流れ込んでいく。
特別縁故者は簡単に認められない
相続人不存在の場面で特に争いとなるのが、特別縁故者に該当するかどうかだ。この判断基準を示したのが、最高裁判所平成16年10月29日判決だ。
この判決は、特別縁故者に当たるか否かを、療養看護の具体的内容や生活関係の密接さ、経済的援助の実態などを総合的に考慮して判断すべきであるとした。単に親族であったとか、交流があったという事情だけでは足りず、客観的事実によって裏付けられた関与の程度が求められた。
実際の家庭裁判所では、長年世話をしていたと主張する親族の申立てが、証拠不足を理由に却下される例もある。
同居していなかった、金銭援助の記録がない、療養看護の内容が具体的に示されていないといった事情があれば、特別縁故者とは認められないことも珍しくない。感情的なつながりよりも、客観的証拠が重視されるのが実務の現実だという。
内縁配偶者という難しい立場
法定相続人ではない内縁配偶者についても、判断は慎重に行われる。東京高等裁判所平成21年9月17日判決では、同居の実態や生計の一体性などが詳細に認定され、内縁の妻への分与が認められた。
しかし、これは具体的事情が十分に立証された結果だという。住民票が別のままであったり、生活費の負担関係を示す資料が乏しかったりする場合には、内縁関係の実態が認められず、申立てが却下されることもある。法的保護の道は開かれているものの、そのハードルは決して低くない。
期限を過ぎれば救済はない
特別縁故者の申立てには公告期間という時間的制限があり、この期間を経過すると、内容にかかわらず却下される。実際に、制度を知らず公告終了後に申立てを行ったため、門前払いとなった事例もある。制度の存在を知らなかったこと自体が、権利を失う結果につながりかねない。
相続放棄後も残る責任
相続放棄についても、誤解が少なくない。最高裁判所令和3年4月26日判決は、相続放棄をしても、現に占有している不動産については一定の保存義務を負う場合があると判示した。
この判断は、放棄すればすべての責任から解放されるという理解を修正するものであり、空き家の倒壊や近隣被害といった問題とも密接に関わっている。
管理空白と社会的コスト
相続人不存在が社会問題として注目される理由の1つは、不動産の管理空白にある。
清算人が選任されるまでの間、老朽化した建物が放置され、周辺環境に影響を及ぼすこともある。清算手続には一定の時間を要するため、その間の管理が不十分になりやすい。
最終的に国庫へ帰属したとしても、売却困難な土地は国有地として残り、その維持管理の費用は社会全体が負担することになる。
数字の裏にある問い
国庫帰属約1,292億円、清算人申立て約7,000件という数字は、人口減少や家族形態の変化、不動産価値の二極化といった現実を背景に生まれている。相続人不存在は単なる法律問題にとどまらず、空き家問題や地域社会の持続可能性にも関わる構造的課題と言えよう。
財産の行方を自らの意思で定めるのか、それとも制度の帰結に委ねるのか。その選択は、静かではあるが確実に私たち一人ひとりに迫っていると言っても過言ではないだろう。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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