(写真はイメージです/PIXTA)

企業が自らの事業活動に関連する人権侵害リスクを特定し、それを予防、軽減、是正を図る「人権デュー・デリジェンス」が世界的な潮流となっています。企業経営における人権について、ニッセイ基礎研究所 鈴木智也氏が解説します。

1―人権デュー・デリジェンス

1.ビジネスと人権に関する潮流

人権デュー・デリジェンス(以下、人権DD)は、企業が自らの事業活動に関連する人権侵害リスクを特定し、それを予防、軽減、是正を図る取組みだ。

 

人権DDが、世界的な潮流として定着したのは、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されたのが始まりだ。ビジネスと人権の問題は、1990年代には既に世界的な課題と認識されていたが、当時はまだステークホルダー間に見解の相違が存在し、共通の理解が得られていなかった。

 

そこで国連は、2005年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に関する事務総長特別代表という役職を新設し、議論を進めるうえで必要となる実態の調査研究に取り組み、6年という歳月を掛けて、すべてのステークホルダーに受け入れられる人権尊重の在り方を採択するに至った。それが、現在では多くの国や国際機関などの様々な法律や、規則に反映されている指導原則の成り立ちであり、世界的な取組みとして人権DDが普及してきた背景である。

2.企業に求められる人権取組みの全体像

同原則は、「国家の人権保護義務」「企業の人権尊重責任」「救済へのアクセス」という3つの柱から構成される。すなわち、国家は管轄内における人権侵害の防止と救済に努める義務を負い、立法的・行政的な手法を用いて、企業に人権尊重に取り組むよう求めることが必要とされ、企業は事業活動で適用される、すべての法令や規則を遵守し、人権を尊重する責任を果たして行くことが求められる。そして、人権侵害が万が一生じた場合には、被害者が実効的な救済を受けられるよう、国や企業に対して救済メカニズムを構築することを求めている。

 

企業に求められるのは、このうち基盤となる原則を含む14の指導原則からなる、第2の柱「企業の人権尊重責任」であり、特に多くの主体が関わる重要なパートだ(図表1)。具体的には、次の3つの取組みが必要とされる。

 

【図表1】国連ビジネスと人権に関する指導原則
【図表1】国連ビジネスと人権に関する指導原則

 

第1の取組みは「人権方針の策定」である。企業は、すべての企業活動において、人権を尊重する責任を果たすという、コミットメントを発信する。専門的な助言を受けて策定した人権尊重の方針を企業の最上級レベルで承認し、具体的な手続きに落とし込んで行く。

 

第2の取組みは「人権DDの実施」である。企業は、事業領域や取引先における人権への負の影響を評価・特定し、悪影響の予防・軽減・是正する措置を講じる。社内プロセスの変更や活動の停止、調達先への人権尊重の働きかけなどを行い、是正措置が適切に機能しているかを調査して、サスティナビリティ・レポートや統合報告書などの形で社外に発信する。これらのステップは、継続的に繰り返していくことが望ましいとされる。

 

最後の第3の取組みは「苦情処理メカニズムの構築」である。企業は、自社が人権侵害に関与したことが判明した場合に、それを是正する仕組み(すなわち、苦情処理メカニズム)を整えておく。これらの仕組みは、実効的に運用されるよう責任者や担当部署を指定し、地域社会や他の企業等とも協力して、被害者の救済に当たることが求められる。

 

次ページ2―企業が配慮すべき人権課題

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年11月11日に公開したレポートを転載したものです。

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