(※写真はイメージです/PIXTA)

「売上の管理が適切にできていなかった」「後から無申告であることに気づいた」等の理由で、事業者に対し税務調査が行われることがあります。その際に質問応答記録書への署名を求められた場合、同意の証拠として重加算税の賦課に踏み切られてしまうケースもあるため、署名すべきかどうかは重要なポイントとなります。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、税務調査について野﨑洋平弁護士に解説していただきました。

 

肝は「意図的だった」と判断されたかどうか

一方で、重加算税の場合は、帳簿に記載がなかった売上が、単なる記帳のし忘れによるミスなのか、売上を隠そうとしてわざと記帳しなかったのか、一見して判断することは難しく、後に争いとなることがあるので、調査官は質問応答記録書を作成し、帳簿に記載がなかった売上は納税者が売上を隠そうとしてわざと記帳しなかったことを記録して、重加算税を課すことが適法であることを証明するための証拠とするのです。

 

本件において、調査官がSさんに対して、「故意に帳簿を消した」「税金を支払いたくないので、申告しなかった」などという、事実と異なる内容の質問応答記録書に署名を求めていますが、おそらく本件では、Sさんは無申告であっただけでなく、帳簿の作成もしていなかったことがうかがわれます。

 

この点、帳簿を作成しなかったことや申告を怠っていたことのみをもって、直ちに重加算税が課されるわけではありません。

 

帳簿を作成しなかった理由や、申告をしなかった理由は様々であり、例えば、仕事が忙しくて帳簿を作る時間が取れなかったり、申告をすること自体を忘れていた人もいれば、売上を誤魔化したり、そもそも税金を払いたくてなくて何もしていなかった人もいます。

 

単に時間がなかったり、申告することを忘れていた人であれば、意図的に帳簿を作成しなかったり、あえて申告を怠っていたわけではありませんから、「隠蔽・仮装」行為はなく、重加算税を課すことはできず、無申告加算税が課されるにことになります。

 

一方で売上を誤魔化したり、税金の支払を免れる目的の人であれば、意図的に帳簿を作成しなかったり、故意に申告を怠っていたといえるので、「隠蔽・仮装」行為があり、重加算税を課されることになります。

 

したがって、調査官は、Sさんが帳簿を作成していなかったことや、申告をしなかったことが意図的であったと判断して、重加算税を課す目的で質問応答記録書に署名を求めたものと思われます。

 

Sさんとしては、帳簿を作成していなかったことや、申告をしなかったことについて、売上を誤魔化したり、税金の支払を免れる目的がなかったということであれば、質問応答記録書に署名する必要はまったくありません。

 

むしろ、本件では、調査官が数時間にも渡って署名を強要してきたことからすれば、税務調査の結果、Sさんが意図的に帳簿を作成しなかったり、申告を怠っていたといえる客観的な事情が見つからなかったため、本来なら重加算税を課すことが難しい状況だったところ、それでもSさんに重加算税を課すために、いわゆる自白の強要を求めたとも考えられます。

 

質問応答記録書は、例え記載されている内容が概ね正しいものであっても、納税者自身の言葉で作成されたものではなく、調査官の観点から作成されたものであって、調査官が納税者に対して課税をすることが適法であることを証明する目的で作成するものです。

 

そのような書類に署名をするということの重みをしっかりと理解していただき、安易に署名をしないのは当然のこと、記載内容が事実と異なる場合には、どのような理由があれ署名はしないように心がけてください。

 

なお、重加算税を課す場合に、法律上質問応答記録書の作成が必須となるわけでありませんから、質問応答記録書に署名をしなかったからといって、重加算税が課されないと言ったことはありません。

 

たとえば、調査官に出した帳簿とは別に、本当の売上が全て記録された帳簿が調査で発見されたり(いわゆる「二重帳簿」)、決済口座からの出金が、実際には自己の別口座に入金されていたなど(いわゆる「経費の水増し」)、「隠蔽・仮装」を示す客観的な証拠があれば、質問応答記録書に署名をしなかったとしても、重加算税が課される可能性は高いです。

 

次ページ国に訴えても有利な判決が下る可能性は低いワケ

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録