(※写真はイメージです/PIXTA)

顧客は会社にとって大切な資産です。顧客が製品やサービスを購入することで、事業が発展していきます。しかし、もしもその大切な顧客を退職したスタッフが引き抜いたら……? 売上が大きく減少するだけでなく、最悪の場合、経営破綻まで追い込まれる可能性もあるでしょう。そこで今回は、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、退職するスタッフによる顧客引き抜きについて、亀井瑞邑弁護士が解説します。

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競業避止の契約をしたものの、不安でいっぱい…

相談者は、個人向けのサブスク型サービス業を経営しています。先日、業務委託契約を結んでいるスタッフのKさんから「契約を終了したい」との連絡がありました。相談者は「Kさんが顧客を引き抜きするのでは?」「売上が大きく落ちるのではないか」と不安でいっぱいです。

 

業務委託契約書には、

 

・競業避止義務として書面の同意がない限り、契約終了後も2年間契約事業所があるエリアで同種もしくは類似事業の経営やコンサルティングなど対価を得ることをしてはいけない

 

・特約事項として、顧客にサービス業務、仲介、営業、別法人への誘導をしてはいけない

 

と記載しています。業界では、一人当たりの生涯売上が50万円といわれていることから、違約金は1件につき50万円としています。ただ毎月の売上が30万円超、年間360万円ほどの売上の見込みがある顧客もおり、その顧客が引き抜かれた場合、違約金だけでは損失が大きくなってしまいます。

 

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。

 

(1)万が一顧客の引き抜きがあった場合、業務委託契約書に記載している違約金の支払いは有効になるのか。

 

(2)契約終了まで1ヵ月あるが、引き抜きを防ぐ方法はあるのか。

 

(3)売上が違約金を超える場合、損害賠償請求はできるのか。

業務委託契約での競業避止義務、違約金は有効か?

業務委託契約終了後の顧客の引き抜き行為は、会社に対する競業避止義務違反との関係で問題となります。

 

まず、競業避止義務とは、一定の事業について競争行為(競業行為)を差し控える義務をいいます。競業避止義務について合意があり、その合意が有効である場合には、同義務違反として債務不履行に基づく損害賠償義務の問題となります。

 

もっとも、同義務違反がなされたとして、この行為からどのような損害が発生したのかを立証することは、必ずしも容易ではありません。そこで、あらかじめ違約金を定めておくことが考えられます。

 

なお、雇用契約であれば、このような違約金条項は、労働契約法16条「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」との関係が問題となりますが、業務委託契約は、雇用契約とは異なり、個人事業主や法人間で締結される契約ですので、労働基準法上の制約は受けません。

 

そのため、競業避止義務や違約金条項についても、契約自由の原則に基づいて定めることは可能です。もっとも、同義務を負う側の営業の自由を過度に制約することのないように注意すべきです。

 

まず、競業避止義務それ自体が有効となるためには、契約終了後の期間や地域、業務内容が明確・合理的な範囲で定められている必要があります。次に、違約金条項に関しても、その金額が過大であれば、裁判所には認められないでしょう。実際の損害を反映した合理的な範囲で設定することが望ましいです。

 

仮に実際の損害が違約金よりも高額であることを証明することができたのであれば、その分の損害を請求することも考えられます。しかし、裁判所が求める証明のハードルは非常に高く、時間・労力の関係からは慎重な検討が必要となります。今回の事例のように、1件の売上を50万円と仮定する場合にも、その金額の内容は精査されます。

 

であれば、会社としてはそもそも引き抜きをされないような仕組みを作り、次のような具体的な予防措置を講じるべきでしょう。

 

1.契約の締結時、終了に際しては、競業避止義務を改めて確認し、違約時のペナルティについて説明します。

 

2.特に重要な顧客については、業務委託先に任せるのではなく、相談者自身が適切にフォローを行い、業務委託先と顧客との関係を希薄に留めておくという工夫をしましょう。契約終了まで1ヵ月もあれば、フォローは容易なはずです。顧客がそれでも業務委託先を選ぶのであれば、むしろそのような顧客を留める方が難しく、不自然ともいえます。

 

3.契約終了までの1ヵ月間に、顧客とのやりとりや会社の資料の持ち出しがなされていないか、管理を徹底することで、証拠保全を行いましょう。

 

競業避止義務に違反していることが判明したのであれば、契約終了前であっても損害賠償請求を検討すべきですので、すみやかに弁護士に相談しましょう。

 

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