金融政策の理解に関する彼我の違い
金融政策の理解に関する彼我の違いがわかる記述があります。
バーナンキ(2015)は、量的金融緩和の導入を振り返り、次のように述べます。
他方で、白川(2018)は次のように述べます。
「(中略)当時、オーバーナイト金利は0.001%という極限的なゼロ金利水準となったため、取引コストを勘案した場合、インターバンク市場で取引を行うインセンティブがなくなった結果、取引が極端に細りインターバンク市場の機能が低下するという問題が生じた。このため、金融機関が必要な時に必要な額の資金を市場で調達できるという安心感がなくなるという副作用も生じた。言い換えると、短期金利がある閾値を超えて低下すると、金融政策の景気刺激効果がプラスからマイナスに転化する可能性があるということである」
「銀行の資産負債構造を見ると、預金の期間は短期である一方、資産サイドの貸出や有価証券の期間は長期であるため、(中略)短期金利がさらに低下すると、調達コストの低下余地はなくなる一方、期間の長い運用利回りは低下するため、貸出インセンティブは生まれず、結果的に景気刺激効果も生まれなくなる。さらに、収益性の低下が金融システムを弱体化させると、金融政策の有効性も低下する」(白川方明著『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』)
日米どちらもゼロ金利政策を経験した上で、バーナンキ(2015)は、(長期)金利低下の景気刺激効果を認めています。低金利や流動性の増加が米国の成長株式を中心にバリュエーションを押し上げ、景気を刺激してきたことは疑いようのないことでしょう。逆に、いまは金利が上昇して、景気も資産価格が下押し圧力を受けています。
他方で、白川(2018)は、(長期)金利低下の景気刺激効果をほとんど否定しています。引用箇所では、その論拠として、「経済や金融について詳しくない人にはもっともらしく聞こえるもの」を挙げていますが、実際には、①中銀と翌日物コール市場の関係、②資金を借りて投資する側のインセンティブ、についての無理解に基づいているように思えます。白川氏は、それらについて十分に理解をしているはずであり、筆者は不思議に感じます。
日銀の考えは、2013年4月の黒田東彦氏の総裁就任で変わったように見えますが、大手メディアによる次期総裁や円安に関する論説記事のトーンを見る限り、「先祖返り」の可能性も十分にあるように思えます。