(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、フィデリティ投信株式会社が提供するマーケット情報『マーケットを語らず』から転載したものです。※いかなる目的であれ、当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。

金融政策の理解に関する彼我の違い

金融政策の理解に関する彼我の違いがわかる記述があります。

 

バーナンキ(2015)は、量的金融緩和の導入を振り返り、次のように述べます。

 

「私たちのゴールは30年物の住宅ローンや社債の金利のような、長めの金利を引き下げることだった。それができれば、支出——たとえば住宅や企業の資本投資など——を刺激することができるはずだった。(中略)実際、金融市場は先を読むものなので、住宅ローン金利は2008年11月下旬には——発表はあったものの、まだ実際の買い取りは何も行われていなかったのに——もう下がり始めていた。(中略)また、FRBの買い取りによって国債の供給可能量が減ると、投資家は株式など、ほかの資産への移行を余儀なくされる。そのため、そのような資産の価格は上がることになる」(ベン・S・バーナンキ著『危機と決断 前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録』;傍線は著者ではなく、筆者による)

 

他方で、白川(2018)は次のように述べます。

 

「(中略)当時、オーバーナイト金利は0.001%という極限的なゼロ金利水準となったため、取引コストを勘案した場合、インターバンク市場で取引を行うインセンティブがなくなった結果、取引が極端に細りインターバンク市場の機能が低下するという問題が生じた。このため、金融機関が必要な時に必要な額の資金を市場で調達できるという安心感がなくなるという副作用も生じた。言い換えると、短期金利がある閾値を超えて低下すると、金融政策の景気刺激効果がプラスからマイナスに転化する可能性があるということである」

「銀行の資産負債構造を見ると、預金の期間は短期である一方、資産サイドの貸出や有価証券の期間は長期であるため、(中略)短期金利がさらに低下すると、調達コストの低下余地はなくなる一方、期間の長い運用利回りは低下するため、貸出インセンティブは生まれず、結果的に景気刺激効果も生まれなくなる。さらに、収益性の低下が金融システムを弱体化させると、金融政策の有効性も低下する」(白川方明著『中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年』)

 

日米どちらもゼロ金利政策を経験した上で、バーナンキ(2015)は、(長期)金利低下の景気刺激効果を認めています。低金利や流動性の増加が米国の成長株式を中心にバリュエーションを押し上げ、景気を刺激してきたことは疑いようのないことでしょう。逆に、いまは金利が上昇して、景気も資産価格が下押し圧力を受けています。

 

[図表2]FRBの保有総資産およびS&P500
[図表2]FRBの保有総資産およびS&P500

 

他方で、白川(2018)は、(長期)金利低下の景気刺激効果をほとんど否定しています。引用箇所では、その論拠として、「経済や金融について詳しくない人にはもっともらしく聞こえるもの」を挙げていますが、実際には、①中銀と翌日物コール市場の関係、②資金を借りて投資する側のインセンティブ、についての無理解に基づいているように思えます。白川氏は、それらについて十分に理解をしているはずであり、筆者は不思議に感じます。

 

日銀の考えは、2013年4月の黒田東彦氏の総裁就任で変わったように見えますが、大手メディアによる次期総裁や円安に関する論説記事のトーンを見る限り、「先祖返り」の可能性も十分にあるように思えます。

 

資産を「守る」「増やす」「次世代に引き継ぐ」
ために必要な「学び」をご提供 >>カメハメハ倶楽部

次ページ逆を考えてみる:金利が上がれば、イノベーションは増えるのか

【ご注意】
•当資料は、情報提供を目的としたものであり、ファンドの推奨(有価証券の勧誘)を目的としたものではありません。
•当資料は、信頼できる情報をもとにフィデリティ投信が作成しておりますが、その正確性・完全性について当社が責任を負うものではありません。
•当資料に記載の情報は、作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。また、いずれも将来の傾向、数値、運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
•当資料にかかわる一切の権利は引用部分を除き作成者に属し、いかなる目的であれ当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧