金融緩和を止めるより、賃金・価格の引き上げが必須
日銀は金融緩和を止めるべきなのでしょうか。大手メディアの最近の論説記事では「円安を是正するために、金融緩和をやめるべき」との主張も目立ちます。これについては別途書きたいと思います。
まず、現時点の日本経済は、需給ギャップがマイナスで、需要が不足しており、景気回復の勢いは鈍く、積極的な利上げを行う米国などとは対照的な状況です。
また、需給ギャップはインフレ率としても表されます。そのインフレ率を主要国で比較したものが【次の図表5】です。
まず、①日本のインフレ率を「日本単体で見る」と、総合指数は前年同月比+3.0%で、食品・エネルギーを除く指数は+0.7%です。言い換えれば、物価の上昇はエネルギーと食品によるもので、それらを除けば、日本のインフレ率は「ゼロ近傍」です。
②次に、日本のインフレ率を「他国と比較する」と、他国の水準よりも低いことが確認できます。原油や天然ガス、小麦やトウモロコシなどの国際商品価格の上昇はどの国にも同じ程度の影響を与えるはずです。まして、日本の場合、円安の影響もあります。
にもかかわらず、日本のインフレ率が他国に比べて低く、食品・エネルギーを除くインフレ率が「ゼロ近傍」である状況は、企業が満足に価格転嫁を実施できていないことを表しています。
価格を引き上げないと企業の利益率が悪化し、賃金を引き上げないと家計の購買力が低下して売り上げが落ちるリスクがあります。金融緩和を止めることが現下の状況に対する適切な対応とは思えません。
給付金などの財政措置が難しければ、賃金を引き上げ、価格も上げていくことが必要でしょう。平時に賃金も価格も2%ずつ引き上げていくことが持続できれば、金融緩和を止めることができるでしょう。
重見 吉徳
フィデリティ投信株式会社
マクロストラテジスト
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