トランプ政権の通商政策(関税)をどう考えるか?
金融市場は、ディープシークのことなど忘れてしまい、米国の経済政策、とくに関税の動向をめぐって一喜一憂しているように見えます。
ただし、[図表1]に示すとおり、米国大型株式市場は高値圏で推移しています。関税への懸念はもっぱら「米国債市場の利回り低下」として表れている模様です(→付け加えるなら、米金利の低下でドル安が生じています)。
他方で、金利の低下は、米国の株価にとっても財政にとってもプラスです。関税問題が引き起こす金利の低下が株価の下支えになっている可能性があるでしょう。
「トランプ関税」は、米国の貿易収支とドルにどのような影響を与えるでしょうか。主流派経済学の原則で考えれば、自国の純輸出(=貿易収支)は一国の貯蓄と投資のバランスで決まります(貯蓄-投資=純輸出)。このため、関税政策によっても貿易収支の水準は変わりません(→この点は議論のあるところであり、1990年代の前半を中心に日本ではさかんに議論がなされました)。
たとえば、輸入品に関税をかけることで輸入が減ると、自国の貿易収支は(一時的に)「改善」します。しかし、貿易収支が改善する分、実質為替レートが増価することで輸出も減り、貿易収支は元の水準に戻ると考えるのが原則です。
また、仮に、相手国も(相手国にとっての)輸入品に報復関税をかけると、自国にとっては輸出も輸入も減ることになり、実質為替レートと貿易収支の水準はいずれも変わりません(→関税の規模のほか、自国の輸出品が相手国にとって、また、他国からの輸出品が自国にとって、どれだけ必要な/代替が困難な財やサービスであるかどうかの影響も受けます)。
上記のとおり、原則で考えると、関税は、
1.(トランプ氏が問題視する)米国の貿易赤字を減らしません。
2.また、実質為替レートを下落させません。言い換えれば、ドルもしくは/および米国の物価は下落圧力を受けません。トランプ政権が「貿易赤字の削減」を考えているのであれば、うまくいかない可能性があります。他方で、「ドルの価値維持」を考えているのであれば、関税は、少なくとも理屈の上では、これと逆行する政策ではありません。
今回の日米首脳会談で、日本政府が日本企業による米国への投資を「おみやげ」にしたことも、ドルと円の需給バランスを考えると、ドルの価値維持に資することです。われわれ庶民にとっては円安や輸入物価上昇の材料でしょう。
トランプ氏の行動をどう捉えるか?
講釈など垂れる立場にはない筆者ですが、たまに「トランプ氏の政策や行動をどう捉えたらよいか」と尋ねられることがあります。筆者は「どのみちわからないので深く考えても仕方ないのではないか」と捉えています。
ただし、これは主要メディアでよく見かける「どんなことでもトランプ氏のすることを否定する、リベラルの識者」とは全く異なります。
筆者は「トランプ氏は自国の国益が優先であり、自国の企業にとって不利な政策はとらないだろう。時に間違ったり、矛盾したり、失敗する政策もあるだろう。また、トランプ氏の政策は市民にとって必ずしも『よいことばかり』とはならないだろうが、少なくとも自らを含むエリートたちを利することばかりしてきたこれまでの政権よりは市民の役に立つ政策を行うだろう」といったふうに捉えています(→また、筆者は「識者」でもありません)。
自国の国益を優先するのは、国家として当然のことです。この点で国民が合意できる国家は強いでしょうし、真の独立国と言えるでしょう。もちろん、独立国には、他国にそれを信じさせるだけの「抑止力」が必要です。