金利が上がれば、イノベーションは増えるのか
たとえば、最近の論説記事に「金融緩和は短期決戦が望ましい。企業も消費者も「低金利のうちに投資や消費を進めよう」と需要の前倒しに動くからだ。それが9年半もの長さとなって先々も続くとなると、足元で投資や消費を積み増す動機は生まれにくい。逆に低採算部門が残って産業の新陳代謝は衰え、イノベーションも生まれにくくなって生産性も賃金も上がらない」との記述があります。
確かに金利が上がれば、低採算部門はなくなるでしょう。しかし、金利が上がって、低採算部門がなくなれば、イノベーションが生まれるわけではありません。イノベーションが生まれるかどうかは、家計や企業が抱える課題を見つけられるか、それに対処するアイデアを思いつくことができるか、そこに資本が付くかどうかに依存するでしょう。
起業者にとっても資本家にとってもコストが低いほうが、アイデアを実現するためのハードルは低くなります。コストとは、金利もそうですし、「正社員」から離脱するコストも含まれます。
また、日本から低採算部門がなくなるほどに金利を引き上げれば(=低採算部門の縮小を他の政策ではなく、金利による調整に任せるなら)解雇される人たちが相次ぎます。有給の職業訓練やリスキリングといった受け皿もないまま、失業者が増え、景気は悪化するでしょう。
非採算部門をなくすことで「ムチを打てば、アイデアが出る」というものでもないでしょう。
もし、ムチを打ってアイデアが出るなら、リーマンショックからアベノミクスが始まるまでの間は、日本でもたくさんのイノベーションが生まれていたはずです。良いアイデアが好況のときに出にくいのなら、米国からはイノベーションは生まれていないでしょう。金融政策とアイデアの生成とは関係が希薄に思われます。