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上昇する円の長期金利…日銀の目指す最終到達点

円の長期金利が上昇しています。最新のインフレ率の「公表値」は4%を超えます。

 

これから、日銀は1. 利上げを重ねるのでしょうか。それとも、2. 長期金利の上昇を放置するのでしょうか。あるいは、3. どちらも杞憂であり、こうした議論をし始めるときが、世界経済をけん引する米国が景気後退入りする「事前サイン」なのでしょうか(→このところ、米金利は低下しています)。はたまた、4. (「金融抑圧は避けなければならない」と考えるであろう)財務当局が大幅な増税を実施して、インフレ期待を抑制するのでしょうか(→それはもう始まっているように見えます。これこそが日米の違いに感じます)。

 

本記事では、日本の長期金利(10年国債利回り)のピーク水準と、日銀の政策金利の最終到達点(「ターミナル・レート」)について考えてみようと思います。これらは不可分です。

(テクニカル)ターミナル・レート議論の「始発点」が見えない

最近の各種報道では、ターミナル・レートについて「1%に留まらない」「1%を超える」といった債券市場関係者の見方が示されています。

 

ターミナル・レートの議論について、筆者が知りたいことは「ターミナル・レートをたとえば1.25%と予想する人は、その政策金利の水準で、インフレ期待やインフレ率が2%に収束していると考えているのか否か」です。債券市場の言葉で言い換えれば、「ターミナル・レートをたとえば1.25%と予想する人は、その際の2年金利と10年金利の水準はどの程度と考えているのか」です。

 

もしも、ターミナル・レート1.25%でインフレ期待が2%にアンカーされるならば、1. 追加利上げは不要で、なおかつ、2. インフレが上振れするリスクはなくなっているわけですから、それぞれ、1. 2年金利はターミナル・レートと同水準(たとえば1.25%程度)、2. 10年金利はターミナル・レートと同水準か、これを少し上回る水準(たとえば1.3%~1.6%程度)に留まるはずです。

 

他方で、もしも、ターミナル・レート1.25%でインフレ期待が2%にアンカーされないならば(≒利上げが不十分なら)、1. 追加利上げの織り込みと2. インフレ・プレミアムがそれぞれ残り、1. 2年金利も2. 10年金利もターミナル・レートよりもずいぶん高い水準(たとえば2%程度)になっているはずです。

 

両者はずいぶんと異なる世界です。

 

したがって、ターミナル・レートを議論する人たちは、A.「日銀がとりあえず利上げを止める政策金利の水準」をターミナル・レートと考えているのか、B.「インフレ期待が2%に収束するのに十分な政策金利の水準」をターミナル・レートと考えているのか、これを明確にする必要があります(⇒質問を投げるほうに問題があります)。それが「ターミナル・レート議論の始発点」だろうと筆者は感じます。

 

本来、これら2つは同一でしょう。すなわち、「日銀は、インフレ期待が2%に収束するであろう、それゆえ実際のインフレ率も2%に収束するであろうと考える水準まで政策金利を引き上げる」のが自然です。

 

ただし、たとえば、米国で実際に起きたような「中央銀行の巨額含み損や逆ザヤ」および「市中銀行の巨額の含み損」、あるいは「日本の景気後退入り」や「世界の株式市場の弱気相場入り」を避けるべく、利上げを中途半端に留めてしまう可能性も考えられます。

 

仮に、日銀が巨額の含み損や資金収支の赤字に陥る場合、(その批判の当否は別として)国会などで日銀への批判が強まる可能性があります。日銀が無謬主義から批判を避けたいと考えても不思議ではありません(→2/21の衆院予算委員会で当座預金付利に関する質問あり)*。

 

そうすると、利上げは不十分になり、長期金利がインフレ・リスクを織り込んで大きく上昇するリスクがあります。(*もちろん、逆に、日銀はインフレを抑えられなくても批判されるでしょう。日米どちらの金融当局・金融機関(→日本は潜在的)にとっても最善の結末は「1日にでも早い景気後退」「1日でも早い、長期間のゼロ金利への復帰」かもしれません)。

 

話を戻すと、実際のところ、マーケット・エコノミストは筆者の疑問に答えを出しています。直近の「ESPフォーキャスト」によると、日本国内のマーケット・エコノミストたちは、2026年半ばにインフレ率が「1.7%~1.8%」程度にまで鈍化し、そのときの政策金利の水準は「1.0%~1.1%」程度と考えています。すなわち、彼らは「日銀が政策金利を1.1%程度まで引き上げるとき、インフレ率は2%未満である」と考えています。

 

しかし、長期間、インフレ率が2%を優にオーバーシュートする状況がつづく中、彼らが「たかだか1%そこそこまでの利上げでインフレ率が2%に収束していくと考える根拠」が筆者にはわかりません(→一義的には彼らのモデルがインフレ率の均衡値を1%台後半としてそこに回帰するようになっているのでしょう。あるいは、引き続き「一時的な供給要因」をその根拠として挙げるのかもしれません。しかし、その要因が長く続いた結果、「ひとびとのインフレ期待」や「企業の持続的な価格設定行動」に転嫁しているということはないのでしょうか)。

 

また、後述するように、(たとえば日銀が見ている「1%~2.5%」という)中立金利の水準を踏まえても、1%そこそこまでの利上げがインフレを抑制するには不十分に思えます。

 

筆者には(世界経済が順調に拡大をし、日本の大幅増税が2年くらい先になる限り)、日銀は早晩、「大幅な利上げ」か「長期金利大幅上昇」の選択を迫られるように見えます。

 

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