支持率低迷のゼレンスキー…「元コメディアン」を大統領に選んだウクライナ国民の後悔

支持率低迷のゼレンスキー…「元コメディアン」を大統領に選んだウクライナ国民の後悔

2015年、ドラマで大統領役を演じて人気を博した当時コメディアンのゼレンスキーは、勢いそのままに2019年の大統領選に出馬し当選。当時の支持率は73%を超える人気でした。その後、さまざまな問題で支持率を失ったゼレンスキー。大統領となった彼にいったいなにがあったのか、彼を大統領に選んだウクライナ国民の心境とは……元外交官で作家の佐藤優氏が解説します。

3つの地方を「単一のウクライナ」にすることは困難

前述のように、ゼレンスキーはナショナリズムを煽ることによってウクライナをまとめようとしている。だがウクライナはけっして一枚岩ではない。西部と中間部、南部のクリミアや東部では、歴史も文化もそれぞれ異なる。それを一つの国としてまとめるのは至難の業だ。

 

エマニュエル・トッド(フランス人の歴史人口学者)の分析を見ると、ロシアとウクライナではそもそも家族様式が根本的に異なることがよくわかる。

 

〈ロシアは共同体家族(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)の社会で、ウクライナは核家族(結婚後は親から独立)の社会です。

 

共同体家族の社会は、平等概念を重んじる秩序立った権威主義的な社会で、集団行動を得意とします。こうした文化が共産主義を受け入れ、現在のプーチン大統領が率いる「ロシアの権威主義的な民主主義」の土台となっているわけです。

 

ですから、西側メディアが、「戦争を引き起こした狂った独裁者」としてプーチン一人を名指しして糾弾するのは端的に間違っています。プーチンは、こうした社会にふさわしい権力者だからです。

 

他方、ウクライナ社会は、かつて共産主義国を生み出したロシア社会とは異なります。(中略)おおよそ核家族構造を持っていて、個人主義的な社会です〉

 

※「文藝春秋」2022年5月号

 

こうした素地の違いがあるため、1930年代の農奴集団化は、ロシアでは比較的すんなりうまくいった。集団行動を得意としないウクライナは、農奴集団化に激しく抵抗する。その結果、現在のウクライナ政府が「ホロドモール」と呼ぶ大規模飢餓が発生し、数百万人以上もの民衆が犠牲になった。

 

エマニュエル・トッドは〈ウクライナに「国家」が存在しない〉と主張する。

 

〈核家族は、英米仏のような自由民主主義的な国家に見られる家族システムです。しかし民主主義は、強い国家なしには機能しません。個人主義だけでは、アナーキーになってしまうのです。問題は、ウクライナに「国家」が存在しないことです。しかも西部(ガリツィア)、中部(小ロシア)、東部・南部(ドンバス・黒海沿岸)という三つの地域間の違いが著しく、正常に機能するナショナルの塊として存在したことは一度もありません〉(同)

 

9世紀末から13世紀にかけてできたキエフ・ルーシ(キエフ公国)から、西部のガリツィアが分離した。そのウクライナ民族は、いまだ形成途上だ。ウクライナでは2004年にオレンジ革命が、さらに14年にはマイダン革命が起きる。上からの強力なナショナリズムによって、政治指導者は「ウクライナ民族」なる塊をつくろうとしてきた。

 

エマニュエル・トッドが指摘するように、「単一のウクライナ」なるものは歴史上一度も存在したことがない。こうしたウクライナの素地が、今回の軋轢の根本にあると私は見ている。

 

 

佐藤 優
作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授

 

 

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※本記事は、佐藤優氏の著書『プーチンの野望』(潮新書)から一部を抜粋し、GGO編集部にて再編集したものです。

プーチンの野望

プーチンの野望

佐藤 優

潮出版社

ロシアとウクライナの歴史、宗教、地政学、さらには外務官僚時代、若き日のプーチンに出会った著者だからこそ論及できるプーチンの内在的論理から、ウクライナ戦争勃発の理由を読み解き、停戦への道筋を示す。 〈戦争の興奮…

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