「独裁者ならではの自己中心性」が目につくように
ゲッセンがプーチンと面談したときの描写が興味深い。プーチンが、非公式の打ち合わせのときにどのような立ち居振る舞いをするかということについての証言は意外と少ない。その意味で、この記述は貴重な資料的価値がある。
〈我々が中に入ったときプーチンは、デスクに座っていた。入り口で面会するものと思ったかもしれない訪問客に、そうではなく自分のデスクに近づくよう強いる典型的なロシアの権力者の官僚的な仕草を示すものだった。
この執務室は1990年代のクレムリンの時代からあまり変わらない、1960年代の光沢のある木製の家具、大きなデスクに会議テーブルといったソビエト時代のクレムリンにこぎれいに手を加えた感じだった。
デスクとテーブルの両方に、ソビエト時代のボタンのないプラスチック電話が置かれていた。完全にクレムリンの定型どおりに、プーチンが我々に挨拶をするために立ち上がる前、我々は部屋の中央に行って待機した。
彼は握手をし、会議テーブルに我々を案内した。彼がテーブル先端の中央席に着いてから、ヴァシリエフと私は彼の両脇に座った。ヴァシリエフは顔を赤くして汗ばんでいた。プーチンはちょっと眺めただけではわかりにくいが、かなりの整形手術を施したせいか不相応に大きく見えた。
「会議を始める前に、この会話が意味あるものかどうかを確かめたい。君は自分の仕事が好きかね? もしくは君はたぶん他の計画を持っていて、迫害されたジャーナリストの立場が君のキャリアに役立つことになるのかね?」
と彼は言った。彼は明らかに簡潔な情報さえ事前に与えられていなかった。彼は私が何者であるのかわかっていなかった。彼は本について知らなかったか、デモ運動における私の役割、ロシアの出版界で私が書いてきた彼や彼の行政に関する多くの記事について知らなかった。
また彼はこの会議について事前に何らかの情報を求めなかったように思える。さらなる証しは、独裁者ならではの孤立感や自分中心に世界が回っているような自己中心性が目につくようになっていた〉※
※ マーシャ・ゲッセン/松宮克昌訳『そいつを黙らせろ──プーチンの極秘指令』柏書房、2013年
プーチンは、ゲッセンが彼を独裁者だと激しく非難し、不正蓄財やジャーナリスト暗殺疑惑について書いていることを知らなかったのだ。
ちなみにエリツィンは、新聞を読まず、テレビを観なかった。自分を非難する不愉快な情報を知りたくなかったからだ。ニュースについては、報道担当の大統領補佐官がA4判3〜4枚にまとめたサマリー(要約)を毎朝渡していた。私がこの補佐官から直接聞いた話だが、「大統領は良いニュースだけを知りたがる。悪い話については、それへの対策を記しておかないと機嫌が悪くなるので、この作業には神経を使う」ということだった。
プーチンもエリツィンと同じような状態になっていたのだろう。
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