エリツィンへの批判が、プーチンを正当化する伏線に
ロシアでは「混乱の90年代」という表現がなされることがある。エリツィン時代は、過度な民主化、自由化のために社会が混乱し、国民にとって不幸だったという意味だ。ロシアの義務教育9年生(日本の中学2年生に相当)でもっとも広く用いられている「プロスヴェシチェーニエ(啓蒙)」出版社の歴史教科書において、エリツィン時代は次のように総括されている。
〈1990年代には、ロシア連邦を再建し、その統一性を保持し、国の連邦体制の新たな原則を定着させることに成功した。中央と地方の関係は、より対等になった。この関係は、多民族国家の現代的な発展傾向を考慮したのであった。これが連邦建設の主な結果であった。
対立をすべて抑え、問題をすべて解決することはできなかった。地方との関係で連邦中央政権の役割は弱体化した。その一方で、民族問題がますます大きな意義をもった。ロシア人の民族運動が活発化し、その指導者は、ロシア人の諸問題に政権の関心が払われないことに不満を示した。
ロシアの領土保全は、依然としてもっとも喫緊の課題のひとつであった。ロシアは、ソ連がたどった崩壊への道を繰り返しているように思われた。中央の経済的・政治的意義の低下は、地域間の結束を弱め、連邦権力の参加なしでもすべての問題が解決できるという印象を与えた。チェチェン共和国での失敗は、国の他地域の分離主義者を奮い立たせ、民族政策を変更する必要性が生じた(※)。
※ アレクサンドル・ダニロフ、リュドミラ・コスリナ、ミハイル・ブラント/寒河江光徳他訳『世界の教科書シリーズ32 ロシアの歴史【下】19世紀後半から現代まで ロシア中学・高校歴史教科書』明石書店、2011年
エリツィン時代に〈ロシアは、ソ連がたどった崩壊への道を繰り返しているように思われた〉という評価は辛辣だ。
要するにロシア政府は「あのままエリツィン路線が続いていたら、ロシア国家が崩壊していた」という認識を、義務教育で生徒に叩きこんでいるのだ。
これは、プーチンによる「独裁」に限りなく近い権威主義的体制を正当化する伏線でもある。
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