【労働制別】残業時間の計算方法
次に、労働制別の残業時間の計算方法を解説します。
変形労働時間制
変形労働時間制には、1ヵ月単位のものと1年単位のものが存在します(※6)。
1ヵ月単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
たとえば、月末に業務が集中する会社において、月前半の労働時間を1日5時間などへと短縮する代わりに、月末の労働時間を1日10時間とすることができます。
一方、1年単位の変形労働時間制とは、1ヵ月超1年以内の一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以下の範囲内において、特定の日や週に1日8時間または週40時間を超えて労働させることができる制度です。
たとえば、夏が繁忙期である会社において、冬場の労働時間を短くする代わりに夏場の労働時間を長くする場合などがこれに該当します。
【計算例】
変形労働時間制を採用していても、残業代が発生する場合があります。 代表的なケースでは、1日の労働時間が変形労働時間制であらかじめ会社が定めたその日の所定労働時間を超え、かつ法定労働時間(8時間)を超える場合などです。
たとえば、1ヵ月単位の変形労働時間制を採用している場合において、割増賃金の対象となる残業時間の計算は次のようになります。
・その日の所定労働時間が10時間であり、10時間働いた場合:割増賃金の対象となる残業時間は発生しない
・その日の所定労働時間が5時間であり、7時間働いた場合:割増賃金の対象となる残業時間は発生しない(「法内残業」に該当するため)
・その日の所定労働時間が9時間であり、10時間働いた場合:1時間(=10時間-9時間)分について割増賃金の支払いが必要
・その日の所定労働時間が7時間であり、9時間働いた場合:1時間(=9時間-8時間)分について割増賃金の支払いが必要
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が始業時刻や終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です(※7)。労働者にとって、柔軟な働き方が実現しやすい点がメリットであるといえます。
【計算例】
フレックスタイム制の場合には、1日8時間、週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに割増賃金の支払いが必要な時間外労働となるわけではありません。
フレックスタイム制では、清算期間を設けることとなります。 この清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が、時間外労働として割増賃金支払いの対象となります。
この、清算期間における法定労働時間の総枠の計算方法は、次のとおりです(※7)
たとえば、清算期間の日数が30日である場合の「清算期間における法定労働時間の総枠」は、171.4時間です。 これを超えて労働した分に対しては、残業代の支払いが必要となります。
※7 厚生労働省:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
裁量労働制(みなし残業)
裁量労働制とは、働いた時間によって成果が変わるわけではないと認められる一定の職種に就く労働者に対し、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です(※8)。
裁量労働制には所定の19業務のみを対象とした「専門業務型裁量労働制」の他、所定の要件を満たすことで導入ができる「企画業務型裁量労働制」が存在します(※9)。
【計算例】
裁量労働時間制を採用している場合には、実際に何時間の労働をしたのかを問わず、事前に労使で決めた時間働いたと「みなす」こととなります。 そのため、労使で定めたみなし労働時間が法定労働時間(8時間)以内であれば、原則として残業代は発生しません。
一方、そもそもあらかじめ定めた所定労働時間が9時間であるなど、法定労働時間を超えている場合には、法定労働時間を超えた分について残業代の支払いが必要となります。
また、法定休日や深夜(午後10時から午前5時)に労働した場合にはみなし労働時間の範囲に含まれないため、原則どおり残業代の支払い対象となります。
たとえば、月の所定労働日数が22日であり、1日のみなし労働時間が8時間とされているのであれば、実際の勤務時間に関わらず、労働時間は176時間(=22日×8時間)とみなして計算されます。
ただし、このうち、12時間の深夜労働があった場合には、この12時間分の割増賃金を追加で支払う必要があるということです。