物流業界の「環境性能」
施設の「環境性能」を高めてもコスト回収が容易でない
■ESGへの関心は強まる
テナント企業に環境性能評価を持つ物件を使用しているかどうかについて聞いたところ(図表16)、「不明」あるいは「なし」と回答した企業が全体の3分の2を占めたが、35%の企業が環境性能評価を持つ物件を使用していると回答した。2年前に実施した調査ではその割合が27%だったことを踏まえれば、状況は前進しているといえるだろう。
さらに、環境性能認証を取得した物件を賃借する場合、その賃料が現行賃料をどの程度上回ることを許容するかについて聞いた(図表17)。物流企業・荷主企業はそれぞれ49%、65%が「不明」と回答。検討する必要はあるものの、実際にはそのような物件が多いわけではないため、判断がつきかねているという企業も少なからずいるのではないかと推測される。
「0%」と回答した企業を含めると、割合はそれぞれ約6割と7割に上る。つまり、オーナーがコストをかけて物流施設の環境性能を高めても、現状ではそのコストを回収することが必ずしも容易ではないことを示唆する結果となった。
ただし、逆にいえば、物流企業と荷主企業のそれぞれ4割と3割強が、環境性能の高い物件に関して、現行に比べて高目の賃料を許容すると回答したことになる。SDGsやESGを重視する機運が高まっていること、投資家のESGに対する要求が厳しくなっていること、そしてより最近では不安定な世界情勢を受けて化石燃料由来のエネルギー価格が急上昇していることからも、今後は省エネなど高い環境性能を持つ物件の需要は高まることが予想される。
時間外労働の上限規制が厳格化される「2024年問題」
■他社との連携を図りつつ、人員・拠点の増強で対応
物流業界は従前よりトラックドライバーの高齢化や慢性的な人材不足といった問題を抱えているが、さらに2024年4月よりドライバーの時間外労働の上限規制が厳格化される、いわゆる「2024年問題」が控えている。今回のアンケート調査ではその対策についても聞いたが(図表18)、全体として、荷主企業よりも物流企業がより積極的に対策を講じていることが確認された。
もっとも多くの企業が挙げた対策は「他の輸送会社との提携」だった(物流企業の67%、荷主企業の44%)。次いで「共同配送や積載率を上げる」(物流企業の49%、荷主企業の38%)となり、多くの企業が他社と連携し、輸送回数を減らすことで対応しようとしていることがわかった。ダブル連結トラックなどの新世代車両の導入による輸送モードの見直しも進んでいるようだ。
そして、特に物流企業は、「自社ドライバーの増員」と「中継拠点の新設、増設」も対策に挙げている(それぞれ物流企業の38%と26%)。輸送回数を減らす一方で、たとえば中国地方や東北地方に中継地点を設けることで一回の移動距離を短縮することも検討しているとみられる。このことは、大都市圏以外の立地での物流施設ニーズが今後さらに高まる可能性を示唆している。
本調査結果に関する回答者の属性
調査対象:自社・賃貸を問わず、国内で物流施設を利用する企業
調査期間:2022年3月2日~15日
有効回答数:286
高橋 加寿子
シービーアールイー株式会社(CBRE)
リサーチ シニアディレクター
羽仁 千夏
シービーアールイー株式会社(CBRE)
リサーチ ディレクター
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