老人ホームという選択肢
高橋美香さん(仮名/42歳)は大企業に勤める会社員です。都内で夫と一人息子とともに、仲睦まじく生活していました。
母親の幸子さん(仮名/74歳)は郊外に持ち家があり、預金は5,000万円程度。これは、準富裕層と呼ばれる資産額です。幸子さんは5年前に夫を亡くしており、広い家にひとりで住んでいました。夫と一緒に築いた家に思い入れがあり、掃除や維持は楽ではないもののこだわりをもっています。
昨今、美香さんは幸子さんの体調を気にかけていました。背中が丸くなった気がする、動作に疲労がみられるなど、気に出したらキリがありません。美香さんは幸子さんに確認してみることにしました。
「お母さん、最近体調よくないんじゃない? もしもきついようなら、なにか相談に乗ってあげられるかもしれない。離れても家族なんだから、なんでも話してね」幸子さんにとってこれは、図星を突かれた形でした。「そんなに目に見えて弱っていたのか……」いささかショックではありましたが、それ以上に娘の優しさに心を打たれます。
「実は……」幸子さんは美香さんに最近体調が優れないこと、そして家の維持が難しいことを打ち明けました。美香さんは母の話を親身に聞き、解決策を講じました。老人ホームへの入居を勧めたのです。
幸子さんの預金が5,000万円もあれば、十分にいい施設で暮らしていけるだろうと美香さんは安心していました。母親も娘の提案を受け入れ、高額な入居金と毎月の費用がかかる高級老人ホームへと入居することになりました。
幸子さんの新しい生活は、初めこそ順調でした。快適な施設、プロによるケア、そしてほかの入居者との交流は、彼女にとって新しい生活のスタートを切るいい機会でした。しかし、その快適な生活は、想定以上に多額の支出を伴うものであり、数年後には予想外の事態に直面することになります。
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