日本に依頼するとコストが高くなる
■一帯一路の狙い
一帯一路は、中国が人民元で決済する経済圏を増やすために推進している印象があると思います。実際、人民元ですべて決済できる仕組みにしています。中国の銀行が融資を担当し、中国のゼネコンが建設を請け負い、中国のメーカーが資材を供給するということです。
ただこれは人民元の経済圏を広げるためではなく、すべて中国国内での取引のようにして、人民元を流出させないためです。そして相手国での事業であるにも拘わらず、お金がほとんど現地に落ちず、中国に行くような仕組みになっているのです。なおかつ、最後はドル建てで相手国に請求するわけです。
実際にはそれですべて収まるわけにはいきませんから、外貨が必要な場合は、安いコストで外貨を調達して、相手国に貸し付けます。ところが貸し付ける金利がやたらと高い。自分たちが調達したときの金利よりずっと高い、貸した段階で大きな利ザヤがあるということです。
そんなわけで相手が窮するのは目に見えています。それで前項で触れたように「返せないんだったら、99年間お前のところの港を俺たちが使えることにしろ」という話にしてしまう。
ちなみに、99年とは、アヘン戦争で勝利したイギリスが清国に香港島を割譲させたうえで、1898年7月1日、香港島の向かい側の九龍半島、新界地域を租借したのと同じ期間です。習政権はその屈辱的な期間を一帯一路沿線国に適用するという無神経ぶりです。旧帝国主義的なことをやりながら、一方で高利貸のようにうまく儲けているのは、無様で滑稽でもあります。
相手国に連れていかれた大量の中国人労働者のなかには、そのまま現地に居ついてしまう人も多いと聞きます。ケニヤやアンゴラなどアフリカには結構そういう都市があって、中国人と現地の人が対立したり、排斥運動が起きたりしています。
■日本が一帯一路に勝てない理由
一方、日本の円借款あるいは日本の国際協力銀行は、相手国の事情を慮って金利もできるかぎり低くしています。とくに円借款ともなると、当初何年も据え置き期間(元本返済を猶予する期間)を設けます。LDC(=後発開発途上国)や貧困国を対象にした金利は0.01~0.65%とかなり低く抑えています。円建てのクレジットで円の金利がゼロということもあります。
為替相場の変動の影響は受けますが、いずれにしても相手国にとって非常に有利な条件です。
中国はドル建てで一帯一路沿線国・地域などのプロジェクトを受注していますが、ドル建てではなく人民元建ての借款にした場合、ドル準備を増やしたい中国はドルが得られません。相手国にとってみれば、手持ちのドルを売って人民元に替えて返済する羽目になりますが、大量の人民元を自由に取引できる市場は中国と香港以外にはほとんどありません。
しかも、返済開始時にはプロジェクト発注時よりも人民元の対ドル・レートが上昇する可能性が高い。そのときは人民元の対ドル高分だけ相手国の負担が大きくなるという為替リスクが発生します。それで躊躇してしまいます。このことも中国の借款がドル建てである理由です。
以上のことを総合すると、援助のほしい国は日中両方から話が来た場合、冷静に考えれば日本に頼みたいと思っているはずです。日本政府も確かに中国に取られてはならないと思っています。例えばインドネシアの高速鉄道計画がありましたが、これは日本が当然受注してしかるべきでした。新幹線の技術もありますし、インドネシアは日本に発注したかったのですが、日本に依頼するとコストが高くなるのです。
「では」ということで、受注価格を中国並みに下げてしまうと、今度は日本のゼネコンから採算が合わないから受けられないと返ってくる。はっきり言って日本製は高い、しかも借款条件として環境破壊はしないなど注文をつけるわけです。中国製は「安かろう悪かろう」だけれども、手続きはてっとり早い。
大規模なインフラ建設プロジェクトにはいろいろな側面があり、丸抱えで受注してしまうと現地の用地買収など、デリケートで複雑なことまで携わらなくてはなりません。これはかなりの確率でトラブルになり、現地から憎まれることになります。それで日本政府も二の足を踏んでしまうわけです。
このあたり、中国は強引にやります。日本はそういうところは紳士的ですから、どうしても慎重になってしまうのです。コストは高い、トラブルを恐れる、そのふたつの理由で、日本は中国に勝てません。
田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員
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