(※写真はイメージです/PIXTA)

「弟家族」「高齢母と兄」の組み合わせで、長年暮らしてきた二世帯住宅。しかし時は流れ、家族の形は変わります。子ども巣立って夫婦二人になった弟世帯と、母を見送ってひとりきりになった独身兄。このまま二世帯を維持することは難しく…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

二世帯住宅…売りたい弟夫婦、住み続けたい独身兄

今回の相談者は、横浜市在住の70代の森さん夫婦です。二世帯住宅で同居する独身の兄と、家の売却をめぐってトラブルになっているため、アドバイスがほしいとのご相談でした。

 

森さんは、結婚当初から自分の実家で両親と独身の兄と同居してきました。飲食業界で働く兄は、その後結婚することなく、ずっと両親と一緒に生活してきたといいます。

 

「私の父親は20年前に亡くなりまして、その際、仕事が不安定な兄ではなく、サラリーマンだった二男の私が実家の土地と建物を相続しました。父が亡くなってから数年後、二世帯住宅へと建て替えたのです」

 

二世帯住宅は、森さん夫婦と2人の子ども、そして母親と兄の2世帯が暮らす、完全分離型の構造でした。

 

「二世帯住宅は、私の世帯と母と兄の世帯、それぞれが3分の2、3分の1の割合で費用を出し合うことになりました。建物の名義は私が3分の2、兄が3分の1の割合の共有です」

「老後はうちの子を頼るつもりだと、義兄が…」

3年前、森さんの90代の母親が亡くなりました。そしていま、森さん夫婦も兄も70代になっています。

 

「私たち夫婦には2人の子どもがいますが、すでに独立しました。いまの家は、夫婦だけでは広すぎて暮らしにくいのです。それは、母がいなくなった兄も同じことでしょう。そのため、売却したお金でそれぞれ老人ホームに入ろうと提案したのですが…」

 

自宅の敷地は森さんの名義ですが、建物には3分の1兄の名義が入っているため、勝手に売却することはできません。森さん夫婦は、自分たちの老後のプランを兄に説明し、自宅の売却について相談しましたが、兄は「俺はずっとここに住む」と頑なです。それだけでなく、森さん夫婦が予想だにしない発言まで飛び出しました。

 

「義兄は、自分の老後をうちの子どもたちに見てもらうというんです!」

 

森さんの妻が叫ぶように言いました。

 

「子どもに迷惑をかけないよう親が必死に老後資金をかき集めているのに、伯父が面倒を見てもらう気満々ってどういうことでしょう!? 私は絶対そんなことをさせません」

 

森さんは感情を高ぶらせる妻を制止しながら言葉を続けました。

 

「2人とも仕事が忙しくて、この間やっと結婚したばかりなんです。上の子にはもうじき赤ちゃんが生まれます。親が子どもの幸せに水を差すようなことはできません。まさか伯父の面倒を見させるなんて…」

 

次ページ「高く買い取る」との申し出にも、兄は同意せず

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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