(※写真はイメージです/PIXTA)

「弟家族」「高齢母と兄」の組み合わせで、長年暮らしてきた二世帯住宅。しかし時は流れ、家族の形は変わります。子ども巣立って夫婦二人になった弟世帯と、母を見送ってひとりきりになった独身兄。このまま二世帯を維持することは難しく…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「高く買い取る」との申し出にも、兄は同意せず

森さん夫婦の誤算は、母が亡くなり、身の回りのことをしてもらう人がいなくなった兄が、高齢者施設へ行きたがると思っていたことでした。

 

老人ホームでの生活を考えている森さん夫婦と、いまの家に住み続けたい兄が隣り合わせで暮らしていて、うまくいくはずがありません。

 

「最初は、兄から建物の権利を買い取る交渉をしたんです。お金は多めに払うから、別の場所で生活してもらえないかと提案したのですが、兄は〈俺は死ぬまでここで暮らす〉と繰り返すだけで…」

 

森さんは弱り果てているといいます。

 

森さんの兄は、ずっと住み続けてきた場所から離れがたいのでしょう。しかも独身で、親族といえば弟家族のみ。弟家族を頼る気持ちが強いのですから、建物を高く買い取るという提案で納得してもらうのは難しいといえます。

 

森さん夫婦も、いくら年下とはいえ、数年しか年齢の違わない兄の老後を見るのは無理ですし、ましてや子どもたちに負担をかけるわけにはいきません。とくに森さんの妻は、兄から子どもたちを頼るつもりだと聞いて以降、今後一切付き合いたくない、顔も見たくないという強い拒絶の気持ちを持っています。

 

しかし、いま70代であれば、これからまだ20年近い人生があるかもしれず、ストレスを抱えたままでいるのは避けたいところです。

問題を解決する「2つの方法」

森さんとの打ち合わせで、筆者と弁護士は、自宅に住み続けたいという人の説得は相当難しいとお話ししました。

 

長年住んだ土地や家への愛着は簡単になくなりませんし、お金を多く払うという提案で気持ちが動かないなら、まず話は進みません。

 

完全分離型の二世帯住宅でも、隣に暮していれば顔も合わせますし、建物のメンテナンスの相談や協力も必要です。そのような状況で関係が悪いとなれば、ストレスは相当です。ましてや、時間がたてばさらに状況の悪化が予想され、問題解決は一層困難になります。

 

そのため、兄を動かすより、森さん夫婦が動くほうが現実的であり、近道です。方法としては、下記の2つがあります。

 

①土地と自分の建物の持ち分を貸し、住み替える

二世帯住宅から森さん夫婦だけ引っ越し、自分の家を賃貸に出し、収益を老人ホームの支払いに充てる。

 

②土地と自分の建物の持ち分を売却する

土地と自宅の持ち分を売却する。森さんから土地と自宅の持ち分を購入した人は、自分が住むか、もしくは賃貸に出し、兄からは地代をもらうことになる。

二世帯住宅は、先々を見越さないとトラブルの原因に

森さん夫婦は提案に納得された様子で「いずれかの方法で、できるだけ早く解決したいと思います」と答えると、事務所をあとにされました。

 

いくらきょうだいであっても、ものごとの考え方や感じ方はそれぞれであり、歩む人生も、築き上げる家族のかたちもそれぞれです。森さんの場合は、母親の存在があってこその二世帯住宅だったと推察しますが、いまとなってはひとつの住宅を別世帯で共有することが問題の原因となっています。

 

本来なら弟と兄は別世帯であり、それぞれが自分の判断で行動できるよう、土地を分筆し、建物も別々にするべきだったといえます。

 

二世帯住宅にはメリットもありますが、先のことまでよくよく考えたうえでの決断が大切です。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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