空き家となった夫実家に「家族で引っ越したい」と…
今回の相談者は、60代の専業主婦の佐藤さんです。数年前に勤務先を定年退職し、いまは嘱託社員として働いている、同じく60代の夫の相続の件で相談があるとのことで、筆者のもとを訪れました。
「先日、義母が亡くなったのです。そうしたら、夫がとんでもないことをいいはじめて…。〈空き家になった実家へ引っ越そう〉というんです」
佐藤さんの夫は中部地方の出身ですが、東京の大学に進学し、都内の会社に就職しました。佐藤さんと結婚してからは、都内にマンションも購入しています。夫には姉が1人いますが、飛行機で行かないといけない距離の地域に嫁いでいます。そのため、義父母は佐藤さんが進学してからずっと2人暮らしだったそうです。
「義父母も義姉もとてもいい人たちで、関係は良好でした。一人息子が小中学生のころは、夏休みやお正月に親族で集まり、楽しく過ごしたのはいい思い出です」
数年前に佐藤さんの義父が亡くなったときは、相続税はかからなかったといいます。義父の財産は広めの自宅敷地と自宅建物、畑、あとは現金で、いずれも義母が相続しました。
「実家をリノベーションして、広くきれいにするぞ!」
今回問題となっているのは、義母が亡くなるまで暮らし、いまは空き家となっている、200坪もの広さがある実家のことでした。
「義姉は〈実家を引き継いでくれるなら文句はない〉とのことで、夫に全部任せたいといっています」
姉の言葉を聞いた佐藤さんの夫は急に〈このタイミングで実家をリノベーションし、ふるさとに移住したい〉といい出したというのです。
「まったく晴天の霹靂です。老後に地方へ移住するなんて、考えたこともありませんでした。夫の実家は売却して、義姉と半分ずつ分けるとばかり思っていたのに…」
佐藤さんは、同居している大学院生の一人息子のこともあり、頭を抱えています。
「夫は、いまのマンションを賃貸に出し、実家をリノベーションして3人で暮らす計画を、勝手に立て始めているのです。義母から相続する現金と、相続した土地の一部を売ったお金で、建物をもっと広く、きれいにするんだと…」
佐藤さんは、実家から大学院に通っている多忙な息子のことはもちろんですが、長年のマンション生活から庭付きの広い戸建に移ることで、今後、身体的な負担が増えるのではないかと気がかりです。最寄駅からも徒歩8分程度と遠くはなく、それなりの人口がある場所ですが、坂道が多く、日常生活には車がないと不自由です。しかし、佐藤さんの夫はペーパードライバーなうえ、佐藤さんは免許すらありません。
「私が不安を訴えると、夫は仕事帰りに教習所のパンフレットを持ってきたんです。〈そうじゃないでしょう〉と。もう、腹が立って腹が立って…」
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