地主の父の突然死…母は抜け殻、息子は狼狽
今回の相談者は、50代会社員の田中さんです。数ヵ月前に亡くなった父親の相続の件で困っているということで、筆者の事務所を訪れました。
田中さんの父親は、先祖代々から土地を受け継いできた地主です。田中さんがひとりっ子だったこともあり、父親は生前より相続税対策に注意を払い、孫にあたる田中さんの長女を養子としたほか、アパート経営を行うなど、自力でできる範囲の対策を行ってきました。
ところが約半年前、父親は庭仕事をしているときに突然脳梗塞を起こし、倒れてしまったのです。一時は回復の兆候が見えたものの、看病の甲斐なく亡くなってしまいました。田中さんの母親は呆然自失状態で、ここ1ヵ月ほどでようやく落ち着いてきたということです。
「父の財産ですが、広めの道路に面した区画に、マンション1棟、アパート3棟、私道を挟んで自宅、家庭菜園があります。自宅、アパート、マンションの裏手にも、家庭菜園があります。それ以外には、少し離れた区画に広めの畑があります。父は几帳面な人で、賃貸物件の修繕を定期的に行って管理していましたが、アパートは築20年以上なので、結構老朽化が進んでいます」
「路線価が設定されていない私道」をどうすれば?
申告期限まで約半年の時間が残されています。筆者と税理士が調査したところ、田中さんの父親の資産は不動産割合が全体の9割を占めていました。土地については、どの評価方法がいちばん適切で、かつ評価を押さえられるかが課題だといえます。また、老朽化が激しいアパートの建て替えも検討項目のひとつとなります。
田中さんは相続税をいかに少なくするかを最大の課題としていたため、今回の相続においては、配偶者控除を目一杯使用し、二次対策のできる不動産を母親が相続する方針を取ることにしました。
またアパート脇の私道は、路線価が設定されていなかったため「特定路線価」を申請する必要がありました。
私道でも「公共性のある道」と判断されれば…
アパート脇の私道は、防犯を目的として、ふだんは撤去可能なドラム缶で通行止めをしてあります。しかし、公共性があると判断されれば、場合によってはゼロ評価になることもあります。
路線価が設定されていない私道は、税務署で特定路線価の申請を行います(国税庁:『[手続名]特定路線価設定申出書』参照)。これを行うと、税務署の担当者が現地に赴き、調査を行います。この調査は、事前に所有者へ日程の連絡がくるか、もしくは所有者自身で調査日を確認することができます。田中さんは調査日の前日に、親しいご近所の人たちと一緒に、私道入り口のドラム缶をよけておきました。それによって、公共性のある道路と判断できる状態になりました。
特定路線価の申請後、間もなくその価格が届きましたが、周囲の路線価に比べ約90%の価格となっていました。それにより、隣接する自宅も合わせて評価減とすることができました。
特定路線価の設定は、必ずしも評価額の圧縮につながるケースばかりではないため注意が必要ですが、田中さんのケースは奏功したかたちです。
「心配していましたが、とりあえずは無事に乗り切れて、安堵しました。今度は二次相続を視野に対策を立てていきたいと思います」
田中さんは笑顔を見せてくれました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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