「誰もが自由に情報発信できること」の危機
▶訴訟による賠償請求など
最近、SNSで相手を誹謗中傷した者が訴えられて賠償請求されるケースが目立ってきた。将来的には、新型コロナワクチンに関する偽情報を流布した者が訴えられるケースが出てくる可能性もある。また、偽情報や誤情報を安易に垂れ流すソーシャルメディアに対する集団訴訟の可能性もあるだろう。
偽情報の垂れ流しに対する訴訟は、安易な偽情報や誤情報の流布に対する一定の抑止手段になる可能性はある。
この際に、本当に有害な偽情報・誤情報かどうかを判断することが重要になるが、そのためには政治的に中立な第三者機関を設ける必要がある。第三者機関は、警告しても偽情報の発信をやめない常習者のブラックリストを作り、グーグルをはじめとする広告配信ネット企業やSNSと共有する。ソーシャルメディアはブラックリストに載ったページやサイトのアカウントを停止したり、広告配信を止めたりすることも考えるべきであろう。
■情報戦に際して個人で対応できること
SNSには偽情報や誤情報が満ち満ちている。出所の怪しい情報をファクトチェックすることなく簡単に信じている人たちがなんと多いことか。怪しい情報を鵜吞みにする人が、米大統領選挙の陰謀論者になり、同時にワクチンの陰謀論者になっている。
陰謀論の氾濫は、「誰もが自由に情報発信できること」が招いた危機である。インターネットの普及で誰もが自由に情報を発信できることは素晴らしい面もあるが、それは誰もが低品質なニュースを濫造し、発信できるということでもある。
これまでみてきたように、偽情報や荒唐無稽な主張に対するファクトチェックには限界がある。偽情報を信じる者に事実を示して説得したり、考え方の転換をうながしたりすることを目標にする限り、それが達成されることはないであろう。
しかし、強固な陰謀論者には受け入れられなくても、社会に多く存在する中間層には受け入れられる可能性はある。
ある情報に接した場合、その情報が正しい情報か否かをつねにチェックしなければいけない。私は、SNS上の情報を鵜吞みにはしない、まず疑ってかかることにしている。なぜならば、SNSは影響工作の主戦場であることを知っているからだ。
SNSを運営するグーグル(アルファベット)社、メタ社、ツイッター社などは、SNS上に流布される偽情報や誤情報の排除をおこなうようになったが、改善の余地は大きい。
旧フェイスブック社の元社員フランシス・ホーゲンが「フェイスブック社は、会社の収益と市民の安全のどちらを優先するかという局面で、つねに会社の収益を優先させてきた」と告発した。
そして、米科学技術誌『MITテクノロジーレビュー』も、〈デマ・誤情報の多発を受けて、フェイスブックの社内AIチームが是正策を提案するたびに、経営陣が却下していた。〉と報じている。フェイスブックは、トランプ前大統領をはじめとする有名人に対しては有害情報やヘイトスピーチの流布を禁じる規約を適用除外にしていた。
また、感情的なコメント付きの、シェアされやすい書きこみを優先表示するアルゴリズムの弊害について社内から指摘があったにもかかわらず、経営陣がアルゴリズムの修正を却下していたという。SNSを運営する企業の責任は大きいと言わざるを得ない。
もっとも大切なことは、我々一人ひとりが情報に対するファクトチェックをしっかりして、偽情報に惑わされないことだと思う。でないと、我々の社会や国家が分断され、国力が減じることによって、影響工作を展開している国々に資することになるからだ。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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