中国による空母配備は日米にとって脅威
■原子力空母は1年のうち半分程度しか稼働できない
費用の中でもっとも大きいのは、オペレーションに関するものです。オペレーション・コストの総額は約2兆7000億円となっています。これは空母を運用するために毎年必要となるコストをすべて足し合わせたものになります。
さらに退役した後の解体費用や原子力空母の場合には核燃料特有のコストなどが加わり、最終的には4兆円のコストが必要となります。この金額を50年で割ると、単純計算では毎年800億円の経費がかかる計算です。
現実的なオペレーションを考える場合には、さらに事情が複雑になります。
原子力空母は、燃料を補給することなく、半永久的に機関を稼働させることができますから、いつでも艦を動かせるというイメージがあります。しかし現実には、原子力機関の運転には様々な制約があり、毎年一定期間の小規模なメンテナンスが必要となります。
また、カタパルトと呼ばれる航空機を発艦させるための装置は、負荷が大きく痛みやすいという特徴があります。これについても、かなりの頻度で修繕を実施しなければ使いものになりません。
この結果、原子力空母は実は1年のうち、半分程度の期間しか稼働させることができません。実際、日本に配備されている原子力空母は、毎年5月頃、任務航海に出航し、夏休みを挟んで12月頃に帰港。その後、翌年の春までメンテナンスに入るというのが通常のオペレーション・パターンになっています。
1年のうち、いつでも作戦行動に出られる状態にしておくためには、最低2隻の空母が必要となりますから、当然のことながらコストも2倍かかります。米軍が11隻もの空母を保有しているのはそのためです。
また空母は通常、単独では行動せず、巡洋艦や駆逐艦などと艦隊を組んでオペレーションを実施します。このため横須賀基地には、空母に随伴するための巡洋艦や駆逐艦が11隻ほど配備されています。最終的なコストを考える際には、こうした随伴艦のコストも含める必要があるわけです。
■中国の空母が実用的になるまでにはもう少し時間がかかる
ちなみに米国は近年、アジア太平洋地域の安全保障について、日本など同盟国にその一部を担って欲しいと考えるようになってきました。米国単独で世界の警察官として振る舞うのではなく、日本などを含めた地域安全保障ネットワークを構築するという考え方です。
日本の海上自衛隊が配備している護衛艦は、米国の巡洋艦や駆逐艦とある程度、共通した仕様で建造されているのですが、その理由は米軍との共同作戦を想定しているからです。海上自衛隊が保有している各種の護衛艦は、地政学的な観点から見れば、米軍の第七艦隊と同一ということになるでしょう。
一方、中国はアジア太平洋地域での影響力を高めるため、中国としては初となる空母「遼寧」を2012年9月に就役させています。2013年4月には、2隻目の空母を建造する方針を明らかにしていましたが、今年の1月になって、正式に2隻目の建造を発表しました。
空母の開発や運用には、相当な経験の蓄積が必要といわれています。「遼寧」は旧ソ連製の空母「ワリャーグ」を改修したものであり、中国がゼロから建造したものではありません。まずは遼寧でノウハウを蓄積し、その後の国産空母につなげていくという流れです。
2隻目の空母は、遼寧でのノウハウをもとに中国が独自に建造します。
排水量は5万トン前後と見られ、原子力ではなく通常動力が用いられる予定です。遼寧は基準排水量が5万5000トン、満載排水量は6万7500トンですから、初の国産空母は遼寧と同程度の大きさになる可能性が高いでしょう。
中国による空母配備は、日本や米国にとっては脅威ですが、中国が完全に空母運用のノウハウを蓄積するまでには、もう少し時間がかかると見た方がよいでしょう。
加谷 珪一
経済評論家
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