日露戦争の戦費調達はニューヨークとロンドンで行われた事実

世界から見た戦争とお金①

日露戦争の戦費調達はニューヨークとロンドンで行われた事実
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本と英国は金融システムで密接な関係が構築されるということになるので、これが日露戦争に対する英国の支援や資金調達につながっていくわけです。当時の明治政府の指導者は、グローバルな金融システムの仕組みを理解していたようです。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

調達した資金の多くは英国の銀行に預けられた

■日露戦争の費用はニューヨークとロンドンで調達した

 

日露戦争と太平洋戦争の違いのカギを握っているのは、グローバルな金融システムの活用です。

 

あまり知られていませんが、日露戦争は、当時、急激に発達しつつあったグローバルな金融システムとイノベーションをフル活用した戦争でした。一方、太平洋戦争はこうしたグローバル社会に背を向け、ガラパゴスな状況で遂行した戦争です。これが、両者を決定的に違ったものにしています。

 

日露戦争の戦費のほとんどは、グローバルに事業を展開する英国と米国の投資銀行を経由して、ロンドンとニューヨークで調達されました。

 

当時の世界情勢は、圧倒的な経済力を持つ英国が、同国の通貨であるポンドを全世界に流通させ、基軸通貨国として君臨しているという図式でした。英国は、グローバル・スタンダードであり、まさに今の米国に相当する地位にいたわけです。ロンドンの金融街シティには、世界中の富が集まっており、世界の中心ともいうべき場所となっていました。

 

また米国は、英国を追い上げる新興国としてその存在感を世界に示し始めている時期でした。ウォール街も英国のシティに準じる金融ハブに成長していたのです。日露戦争の戦費は、覇権国家である英国と、それを追い上げる新興国である米国の金融街で調達されました。

 

しかも当時の資金調達の責任者であった高橋是清(のちに蔵相、首相。2・26事件で暗殺)は、世界の投資家を相手に見事なプレゼンテーションを行っています。戦争の意義やその合理性をアピール。投資家を十分納得させた上での国債発行ですから、まさにグローバル・スタンダードに合致した戦争ということになるでしょう。

 

日本がこの時外債を使って調達した資金は、その多くがポンドのまま英国の銀行に預けられました。日本までの輸送にリスクと経費が伴うということもありますが、最大の理由は、英国から購入する兵器の代金を決済するための外貨が必要だったからです。

 

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本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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