(※写真はイメージです/PIXTA)

一時、認知機能低下予防で、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。ブームは下火になったようでしたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

「毎日計算ドリルやって」は子どもの復讐か

■脳トレよりも、人と直に会うことが大事

 

一時、認知機能低下予防ということで、高齢者に「脳トレ」の計算ドリルや漢字ドリルをやらせることが流行っていました。私はてっきりこのブームも下火になったかと思いましたが、コロナ禍のひきこもり生活の中で、人気が復活しているという話を聞きました。

 

脳トレはデイサービスでもとり入れているところも多いでしょう。ある女性は、「算数は嫌いだったのに、この年でドリルをやらされる」と嘆きます。それがデイサービスに行きたくない理由になっていました。聞くと、同じテーブルの認知症の女性が脳トレどころか、難しい数独もこなし、得意満面なのだとか。その人に比べると、自分はどうして数字に弱いのだろうと落ち込むそうです。

 

デイサービスに行ってまで、優劣を気にするなんてばかばかしいです。嫌なことをやるのは脳によくありません。計算ドリルが好きな方もいますが、苦手な人も多いのです。

 

本屋さんでも、脳トレドリルが売られています。

 

こんな話も聞きました。娘が家に来ると「計算ドリル」を置いていき、「毎日やるように」と言って帰ります。さぼっていると、娘が来たときに「お母さん、全然やっていないじゃない。これじゃあ、ボケるよ」と怒られるそうです。親に宿題をやれと責められた子どもの復讐にも見えてしまいます。

 

計算ドリルをやっても、その人たちの認知機能が向上するとは限りません。認知症と診断されても、会計士などをやられていた方は数字だけは得意という人もいます。脳というのは複雑で深遠な場所なのです。誰もが同じ脳トレで効果が上がるなんてことはないと理解してほしいと思います。

 

また、計算ドリルを続けてやることができて、そのスピードや得点は上がってもほかのテストの点はまったく上がらないという研究結果が多数出ています。

 

脳トレをすすめられたら、「もう十分ボケているから、好きなことだけやらせてちょうだい」とお断りできたらいいですね。

 

認知機能の低下を防ぐことに有効なのは、人との交流です。そして、自分のことをアウトプットしていくことです。

 

デイサービスは、まさにこの交流とアウトプットの場です。ひとりで本やテレビで楽しめる人も、「このドラマが面白かった」「最近の朝ドラはテンポが速すぎてついていけない」などと周囲の人たちに感想を漏らす。そんなお喋りが楽しめるように工夫してほしいと思います。

 

子どもたちも、親に脳トレドリルをすすめるよりは、一緒にお茶を飲み、お喋りする、季節の行事をする、そして笑い合うということがいちばん認知症の発症や進行を遅らせるということを知ってください。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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    本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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