イギリスのフォークランド紛争の戦費負担
■経済が強い国は着実に戦争を実施できる
ベトナム戦争は、当初、インドシナ半島の共産化を防ぐという目的で実施されましたが、次第にその本質的な目的を見失い、最終的にはほとんど何も得るものがないまま全面撤退に追い込まれました。
イラク戦争も、当初はテロとの戦いという大義名分がありましたが、最後には何のためにイラクと戦っているのか、はっきりしない状況に陥りました。
両戦争とも、米国の政治や社会に極めて大きな影響を与えていますが、冷静に数字を見ると、少なくとも経済的にはそれほど大きな影響はありません。
日本では、ベトナム戦争やイラク戦争によって米国が疲弊した、あるいは経済的に行き詰まったので戦争を始めたというトーンで語られることが多いのですが、これも1つのイメージに過ぎません。数字を見ると実態はむしろ逆であり、強い経済があったので、長期間戦争を遂行できたと解釈する方が自然でしょう。
これは英国のフォークランド紛争の事例からもわかります。
英国とアルゼンチンは、1982年に南大西洋のフォークランド諸島の領有権をめぐって戦争となりました。フォークランド紛争の戦費についてはいくつかの解釈がありますが、総額で約30億ポンドの金額を費やされたといわれています。
当時の英国のGDPは2380億ポンドですから、GDP比は1.2%、国家予算は約900億ポンドなので、国家予算比では3.3%ということになります。現在の日本に当てはめれば約3兆円から6兆円規模の支出ということですので、全体から見れば大した金額ではありません。
当時は、サッチャー首相による徹底した構造改革が行われており、英国は長い経済的苦境から脱しつつある状況でした。サッチャー氏は、参戦を一人で決断したといわれていますが、上向きつつある経済が重要な決断を後押しした可能性は高いでしょう。
フォークランド紛争に勝利したことで、サッチャー氏の支持率は急上昇し、彼女が進める構造改革も国民に支持されることになりました。
フォークランド紛争をきっかけに、英国の株価はさらに上昇する結果となっています。
※各種統計の数字は基本的に書籍が出版された2016年当時のものです。
加谷 珪一
経済評論家
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