記憶のスイッチは「やる気」?
覚える意志というものが発動されなければ、脳は記憶モードに入ることはありません。やる気、つまり、覚えようとする意志は、集中力のスイッチでもあり記憶のスイッチでもあるのです。
これは、海馬が置かれているエリアである大脳辺縁系の機能をおさらいすると理解しやすいと思います。このエリアがつかさどる中に「意欲」も含まれていました。この意欲に関わるのは、「側坐核」という部位です。
側坐核が活性化すると意欲がわくというわけなのですが、この側坐核はどうにも非常にレスポンスが悪いのです。いくら心の中で「これからやる気を出すぞ」と大声で唱えても、うんともすんとも言ってくれません。
これが要するに、「やる気はいくら待っても自動的に出てくるものではない」ということの理由でもあったのです。
そこで、「作業興奮」という手法で、とにかく体を動かして作業を始めてしまいます。それを続けているうちに、やっと側坐核が反応して活性化が始まり、やる気が生じるというわけです。このしくみは、記憶でも当然利用できることになります。これが海馬のだまし方その1「覚える意志を示す」です。
勉強でも仕事でも頭に情報をインプットする必要が生じたときは、まずはとにかく体を動かしながら作業を始めてしまうということです。じっと動かず深い思考が必要な課題から始めるのではなく、手書きでメモをしたり、小さな声で音読をしたりといった、とにかく体の動きを要するものを優先して始めることをお勧めします。それを続けていると数分後に側坐核が活性化して、集中力、および記憶能力のスイッチが入るというわけです。
そして反対に、海馬に覚える意志があることを示すために、やってはいけないことがあります。いわゆる「ながら〇〇(例えば勉強)」です。ながら勉強をすると海馬をだますことはできません。
インターネットを見ながら勉強をする人、音楽を聴きながら勉強をする人は多いと思いますが、覚えることが必要な学習のときに限ってはNG行為なのです。
つまり、1つのことに集中したいときに、たとえ無意識だとしても外の情報が頭の中に入ってきた場合、海馬は意識の散漫を敏感に感じ取ります。
例えば、音楽が流れている場合、本人の意識としては無自覚だったとしても、脳はそれが何か意味を読み取ろうとします。海馬は、脳のリソースが別のものに使われていることを敏感に感じ取り、それに対して「覚える意志なし」と判断することになるというわけです。
そのため、記憶が必要な課題に直面したときは、まず注意が奪われる要素はできるだけ排除した環境にするということが必要です。最近では、集中力を阻害する犯人の1人がスマートフォンであるという認識が広がってきています。
記憶の観点からすると、できればネット環境を一時シャットダウンするくらいが、ベターではないかと思われます。さらに可能であれば、今ではノイズキャンセリング機能(周囲の音やノイズを遮断してくれる機能)が付いたヘッドホンやイヤホンなどがありますので、そういうものを利用するのも1つの方法だと思います。
補足をしておくと、音がないほうがいいのはあくまでも記憶が必要な課題のときだけです。反対に、書類を作成したり、課題に対して回答を出したりというようなアウトプット作業においては、周囲に軽い雑音があったほうがいいという研究結果もありますので、使い分けてみてはいかがでしょうか。
その特徴から擬人化して、海馬はヤキモチ焼きの性格だと覚えておくといいでしょう。自分(海馬)だけに気があると思っていたのに、他の人(注意を奪う要素)にも気があることを知ったら、海馬にとってはおもしろくないということです。
池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター
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