(※写真はイメージです/PIXTA)

「脳をだます」ことができれば、物事をたくさん覚えることができます。記憶を長く残せるかどうかを決める役目は「海馬」が担っています。記憶力日本選手権大会6回の最多優勝者の池田義博氏が著書『世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

「海馬」は何を基準に取捨選択するか

どのような流れで脳に情報が記憶されるかを簡単に見ていきましょう。頭の中に入ってきた情報はすべて短期記憶の状態にあります。

 

ここでざっくりと記憶の種類について紹介します。記憶は大きく2種類に分けることができます。1つは短期記憶、もう1つは長期記憶といいます。これらは簡単にいうと、覚えていられる時間の長さによって分けられています。

 

短期記憶とは、その名が示すように短い時間だけしか覚えておくことができない記憶のことをいいます。その時間は、一般的におよそ30秒から数分程度といわれています。

 

イメージとしては、耳で聞いた電話番号を頭に留めながらその場で電話を掛けるような場面を想像してもらうとわかりやすいかもしれません。電話を掛けるまでくらいは覚えていられますが、掛け終って目的を果たしたら忘れてしまうのではないでしょうか。その程度の記憶ということです。

 

もう1つが長期記憶です。短期記憶に対してこちらのほうが、世の中で一般的にイメージする記憶に近いものだと思います。例えば、勉強などで必要な記憶は長期記憶というわけです。

 

短期記憶は覚えていられる時間も短いうえに、覚えられる量もわずかです。それに対して、長期記憶は覚えていられる時間が長く、しかも大量に情報を保管しておくことができるのです。ですから、記憶能力をアップしたいのならば、こちらの長期記憶に注目すべきということなのです。

 

冒頭の話に戻りますが、情報が頭に入ってきた段階ではすべて短期記憶です。それらの中で、ある条件をクリアして選ばれた情報だけが長期記憶として脳に保管されることになります。条件をクリアしたかを判断する場所は、当然ながら脳の中にあります。その部位を「海馬」といいます。

 

この海馬は、耳の内側辺りに左右1つずつ存在していて、例えるなら記憶の門番や記憶の裁判官とでもいうべき部位です。海馬が、「これは重要な情報だ」と判断した情報だけが、海馬の門を通ることを許され、「大脳皮質」という場所で長期記憶として保管されるという流れになっています。

 

ということは、裏を返せば、海馬が重要だと考える条件が存在するということです。その条件がわかれば、それを逆手に取って上手に海馬をだますことにより、たくさんの情報を海馬の門を通過させることができることになります。つまり、たくさんの記憶ができるということを意味します。

 

それならば、ぜひこの条件というものを知りたいですよね。海馬が脳の中のどのエリアに存在しているかということが、そのヒントとなります。

 

脳は、機能ごとにいくつかのエリアに分かれています。その中で海馬は、「大脳辺縁系」というエリアに存在しています。この言葉は特に覚える必要はありません。

 

ざっくりと、どういうことをしている場所かということを知っておいてください。

 

このエリアでは、食欲、性欲、睡眠欲、意欲などの本能や、感情や情緒などをつかさどっています。どちらかというと、生存本能に関わるエリアといってもいいかもしれません。このエリアの中に海馬も配置されているというところがポイントです。

 

人間の歴史を考えれば、これも至極当然のことだというのがわかります。1つの例として、今でこそ生活している場の周りには生命をおびやかす危険はほとんどありません。

 

しかし、昔、それこそいわゆる原始時代あたりの人類を想像すると、生活している場の周りには生命をおびやかす危険がたくさんあったはずです。その中で生存し続けるためには、生命に関わることに対して敏感に、そして、優先的に記憶する必要があったはずです。生存本能に関わる情報を記憶しておくことで、脅威に対処することが可能になるというわけです。

 

しかし、海馬をだますために生命に関わる情報だと思わせるといっても、ただ漠然としていて抽象的です。そこでまず、海馬というものは、基本は生命に関わることを重要だと考えるのだということを念頭に置いてください。

 

次ページそもそも脳は「覚えたくない」ワケ

本連載は池田義博氏の著書『世界記憶力選手権グランドマスターの 驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法

世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法

池田 義博

日本能率協会マネジメントセンター

在宅勤務など個人単位で働く機会が増え、従来よりも個人の成果に焦点があてられ、成果物の質を決める「思考力」が要求されています。まずは頭の中の知識・情報の量を増やし、これらを有機的に結び付け、価値のあるアイデアを生…

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