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子ども返りして、人の手に任せてみる
■子どもに返るのも老いの特権
認知症の話を書いていたら、ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』を思い出しました。ディレクターの信友直子さんがご両親の老老介護を記録した映画です。87歳の母が認知症になり、95歳の父が介護する。娘の直子さんは東京に住み働き、両親は広島に住んでいます。
この両親が実にいいのです。何より笑顔がいい。お母様は、きちんとした主婦であっただろうと思います。お父様はなかなかのインテリです。
ふたりが日々の生活をヘルパーさんの助けも借りながら紡いでいく。その中には、「なんでこうなるの」とふてくされる認知症の母や、がまんする父の姿も描かれている。
でも、どこかで「ぼけますから、よろしく」というユーモアのある夫婦の姿を見ると、こういう感じでお互い支え合って暮らしている人も多いのだろうと思います。
なかなか、こういう普通の生活を私たちは見ることがないので、ヒット作品になったのだと思っています。認知症といえば悲惨な家族介護というイメージがありますが、いろいろな助けを借りながら、自分たちらしく暮らしている方も多くいます。
年をとると、子ども返りするといわれます。これも少し差別的な言い方だと思われるときがあります。高齢者にも尊厳がある、子ども扱いとは何ごとかというお叱りです。「おじいちゃん、おばあちゃん」と言わないで、名前を呼びなさいといわれています。
もちろん、「〜ちゃん」と呼ぶような子ども扱いは、彼らの尊厳を傷つけますが、私は「子どもに返る」ことそのものはいいことだと思っています。年をとると、実際にだんだんとケアされる立場になっていきます。いつまでも上から目線で人に指示する気持ちではいけません。「お願いします」という気持ちになっていってほしいものです。
小さいとき、風呂上がりに母に身体を拭いてもらい、天花粉をはたいてもらった記憶はありませんか。親にやさしく世話をうけたときは気持ちのいいものでした。それから、少年少女になり大人になると、すべてに自立しなさいと教えられます。
すると、自分のことは自分ですることが人間の尊厳のように思います。ですから、何かできなくなったら、「もう自分はダメだ」と嘆いて落ち込むのです。
子ども返りして、自分を少しずつ人の手に任せてみるというのも大切なことです。
いまの世界では、あまりにも自立がうたわれて、介護の世界でも自立支援に重きをおきます。介護度が悪化しないように、自立した生活ができるように支援するわけです。