「台湾を一国二制度で併合しなければいけない」というのは、江沢民時代も胡錦濤時代もずっと一貫して言われてきています。なぜこれが習近平時代になって急にきな臭くなってきたのでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

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習近平の野望と台湾統一のタイムリミット

■中国ではあくまで「権力」が第一

 

大躍進の失敗で毛沢東はいったん退陣せざるを得なくなります。しかし、彼は執念を燃やしていて、カムバックを狙って起こしたのが文化大革命です。そのとき国家主席だった劉少奇と党総書記の鄧小平は、すでにこの時点で資本主義原理を導入して、近代化を図らざるを得ないとよく理解していました。

 

それに対して毛沢東は彼らを「走資派」として失脚させました。ことごとく改革路線を否定し、『毛沢東語録』を出版して自らの神格化を進めました。それから若者に高等教育は必要ないとし、農村に行って農業に従事せよと「下放」を行いました。

 

のちに名宰相と評された朱鎔基も文革で下放されて、どこかの山奥で肥おけを担いでいたそうです。いまの中国指導者でそういう人はけっこう多いのです。10歳代の少年だった習近平もそうです。普通はそれで懲りたら、「下放のような権力の濫用はしない」となりますが、そこはそうならないのが中国の人たちなのでしょう。習近平は「権力を持たなきゃダメだ」と痛感するのです。

 

習近平は恐らく政敵であるはずの胡錦濤や江沢民と組んだと思われますが、自分と同じ太子党の薄熙来を失脚させました。2012年2月に発生した側近、王立軍のアメリカ領事館亡命未遂事件に端を発し、妻によるイギリス人実業家殺害、一家の不正蓄財、マフィア撲滅運動における拷問問題、女性との不適切な交際と次々とスキャンダルが報じられた薄熙来事件です。

 

習近平の父親が習仲勲、薄熙来の父親が薄一波でともに共産党の元老でした。文革で元老たちは迫害され、せがれたちは下放されて、ひどい目に遭っています。

 

ちょうど天安門事件があった1989年の秋のことです。日本新聞協会のミッションで各社から何人か記者を中国に出すことになり、『日経』にいた私も「田村、お前が行け」と言われて、行きました。大連を訪れたとき、ちょうど薄熙来が副市長でいちばんの実力者でした。

 

薄熙来は英語を独学でマスターしており、中国語よりも英語で話すことを好みました。中国語はできないものの英語での取材に慣れている私は、ずっと薄熙来の横に座って話ができたのですが、薄熙来が言うには「やはり権力を持たないとダメなんですよ」と。薄熙来の持論はすべてが権力闘争です。天安門事件に関してもそうだと言っていました。

 

私が察するに、やはりすべて恐怖からくるのでしょう。私が会ったときはすでに実力者になっていましたから、今度は追われる立場です。それをものすごく敏感に受け止めていたようでした。

 

とにかく、彼は相当頭も良かったし、口先もうまかった。だから当然のように権力を狙ったわけです。重慶市トップの時代に、マフィア撲滅キャンペーンや「革命歌愛唱運動」など文化大革命を彷彿させるような政治的パフォーマンスを繰り広げ、党最高指導部入りを工作しました。しかし先に触れた「薄熙来事件」で自滅しました。足元が崩れては権力闘争に勝てるはずはありません。

 

とにかく、中国共産党指導層の権力闘争は想像を絶する世界だと思います。習近平は自らの独裁者としての地位を保全し、それを永続させるためには、いかなることでも厭わずにやるでしょう。だから、先に触れたように、永続的な皇帝になるために、習近平は党総書記をずっと続けないといけない。これが大きな問題です。胡錦濤前党総書記のように二期で終えるわけにはいかないのです。

 

それゆえに、台湾問題が非常にきな臭くなるのは当然といえば当然と言えるのです。これは中国共産党内事情に精通している中国人ビジネスマンの間では常識です。知らないのは日本人だけかもしれません。

 

「台湾を一国二制度で併合しなければダメだ」というのは、江沢民時代も胡錦濤時代もずっと一貫して言われてきています。なぜこれが習近平時代になって急にきな臭くなるかというと、習近平自身の野望に関わってくるからです。しかもタイムリミットがあと一年です。

 

来年(2022年)の秋までに台湾問題を中国に利益をもたらす方向にもっていきたい。周辺を中国の軍艦が回っていますし、領空侵犯も平気でやっています。もしドンパチが始まったら、即国家非常事態になります。それで「こんなときに総書記改選などをやってる場合ではない、これを乗り切れるのは俺しかおらんぞ」と習近平がぶちまけたら、みんな黙ってしまうでしょう。だから「危ない」というのが、現況なのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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