習近平の野望である台湾併合の経済的意味も重大です。中国共産党は半導体をなんとか国産化したいのですが、その能力はいまだありません。一方、台湾は圧倒的に優れた生産力を有しています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

「絶対的専制君主をつらない」鄧小平の遺訓

■鄧小平の危惧と習近平の野望

 

鄧小平は毛沢東亡きあと、また文化大革命のようなことが起きると中国はもたない、権力闘争が頻発して滅茶苦茶になってしまうということで、二期制(国家主席は五年二期で合計10年まで)を導入しました。これは賢い政策で胡錦濤政権の2012年まで政治が安定し、経済の急成長に大いに貢献したと思います。しかし2018年、習近平が国家主席の任期制限を撤廃してしまいました。

 

より重大な問題は、国家主席を兼ねる党総書記の任期です。国家主席の任期は憲法によって定められており、習近平が国家主席の任期制限を撤廃するために、党が指揮する中国版国会、全国人民代表大会(全人代)で憲法を改正させましたが、党総書記は党の内規であるために、もともと憲法に制約されません。党内のコンセンサスさえあれば、いくらでも長く居座ることが可能なのです。

 

じつは党総書記であることこそが、中国では最高権力者を意味します。中国共産党の論理では、実権を握っているのは政府を支配下に置く共産党の領袖である党総書記です。中国人民解放軍は政府軍というよりも中国共産党の武装部隊であり、最高司令官は党中央軍事委員会主席です。党総書記がその軍事主席を兼ねることで、独裁権力者として君臨するのです。国家主席の肩書きしかないと、単なる名誉職だとして、だれも言うことを聞かないでしょう。

 

1997年2月に死去した鄧小平は、党指導部である党中央委員および中央委員会常務委員の定年制と集団指導制を求めました。同年9月の党全国大会で70歳定年の党規約が決められたのです(定年は2002年秋の党大会からは68歳に引き下げられています)。

 

国家主席を二期10年とするのも鄧小平の遺言とされ、1993年3月に主席に就任した江沢民、次の胡錦濤はいずれも10年で辞めました。残るは総書記の任期を制約しかねない党幹部の定年制です。

 

鄧小平の遺言には盲点があります。そもそも党規約というものは内規ですから、いかようにも変えられるし、解釈次第でどうにでもなります。軍事委員会主席を兼ねる党総書記は絶大な権力を手に入れます。その権力を使えば、遺言なんか解釈次第でどうにもなります。鄧小平のおかげでトップに登り詰めた江沢民が総書記、軍事委員会主席を降りたのはそれぞれ76歳、78歳でした。定年制を守ったのは胡錦濤だけで、それは軍事委員会主席の座に江沢民にしばらく居座らせたほど権力基盤が弱かったからです。

 

習近平は1953年6月生まれで、党大会が予定されている2022年秋には69歳になり、定年68歳には2021年6月には到達していますから、胡錦濤の前例に従えば引退せざるを得ないわけですが、総書記にはそもそも任期制限はなく、定年制も総書記には適用されないというのが、党中央委員会の解釈なのです。

 

ただひとつ、国家主席をやめるタイミングに合わせて総書記の座を降りるという江沢民以来の慣行だけが邪魔だったので、2018年の憲法改正で国家主席二期10年を撤廃させたのです。

 

「絶対的専制君主をつくらせない」という鄧小平の遺訓、その有効性自体が、党総書記を頂点とする共産党一党独裁の仕組みに依存しています。この内部矛盾が「習皇帝」を登場させるのです。

 

それでも、共産党の総書記の来年(2022年)改選は避けられません。習近平は二期目の終わりを迎え、今年(2021年)はその前哨戦で勝負の年なのです。習近平としてはまさに、いま何をやるかにかかっています。だからアメリカとの対決も絶対弱腰は見せません。それから一帯一路も徹底して推進しています。拡張に次ぐ拡張と対米強硬路線に徹して、「どうだ。俺に代わる奴はいねぇだろ!」と新しいレガシーをつくっているわけです。

 

一方で、いちばんの問題は経済を順調に成長させるということです。経済がガタガタになったら、資格なしということになりかねませんから。

 

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    本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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