米中対立は先鋭化しているようにみえます。世界の普遍的価値である「人権」をウイグルで、それからその前には香港で、中国はやりたい放題です。それでも結局、先進諸国は中国に対して、大した制裁はやっていない、できないといいます。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

中国がアメリカの共和党を嫌う理由

■アメリカ共和党と台湾、中国

 

中国が先の大統領選挙で、民主党のバイデンが勝ったことで胸を撫下ろしたのは事実だと思います。トランプ再選というよりも、中国は共和党政権を嫌がったのだろうと思います。ペンタゴン(国防総省)を押さえているのは共和党のほうですし、中央情報局(CIA)にも共和党の影響力が大きい。民主党は口先ではいろいろ言いますが、軍事行動が伴わないところがあります。それに対して共和党は伝統的に強硬手段を本当にとりますから。

 

例えば1996年、台湾で史上初めての正副総統の直接民選選挙がありました。国民党の李登輝優勢の観測が流れると、中国人民解放軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行しました。具体的には基隆沖にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を展開したのですが、これは第三次台湾海峡危機と呼ばれています。

 

そのときのアメリカは民主党のクリントン政権でした。最初は押っ取り刀で「それは大変だ。空母を一隻出そう」ということだったそうです。すると共和党や国防総省の中国専門家が「何を寝ぼけたことを。空母一隻くらい出してもどうにもならんぞ」と騒いだので、慌てて増派して二隻にしたということです。これで中国に対するアメリカの恫喝――強い意志が示され、大事に至らなかったという事例があります。

 

もしいま台湾周辺で何かあった場合、バイデンはどのくらいやるか……中国としては出方を待っているわけです。第三次台湾海峡危機は25年前です。アメリカ軍と人民解放軍の戦力差は歴然としていましたが、いまは随分小さくなっています。中国側にも25年前の屈辱があります。何かの間違いでほんとうに戦火を交えることも考えられます。

 

アメリカの中国専門家に言わせると、戦力差が小さくなっているからといって躊躇っていると、中国は間違いなく前へ出てくるということです。民主党バイデンに、強硬に出る度胸があるかが注目されています。オバマのときも中国が身勝手な主張で南シナ海の実効支配に出た際、「自由な航行作戦」といって駆逐艦を航行させましたが、単なるパフォーマンスであり、中国の島嶼開発を阻止する決意は感じられませんでした。

 

これについては『ウォール・ストリート・ジャーナル』なども批判的に書いていましたが、結局口先だけで、アメリカの軍艦が南シナ海を回ってみました程度で終わっています。踏み込まない。

 

ところが共和党は、ほんとうに攻撃するかもしれないと思わせるところがあります。コソボ紛争末期(1999年)のアメリカ軍によるベオグラード中国大使館「誤爆」事件は民主党のクリントン政権時代でしたが、それは共和党の圧力による意図的な爆撃でした。

 

共和党の影響力が強いCIAは、中国がベオグラード大使館を拠点にセルビア側を支援し、情報収集や武器供給していたことをつき止め、アメリカ空軍が誤爆を装って破壊したのです。使われた爆弾は高度な精密誘導爆弾で、そもそも誤爆はありえない。この事実は、共和党の中国専門家から聞いたマル秘情報です。

 

そのとき、中国側は北京のマクドナルドを抗議デモ隊が襲った程度で、有効な対抗措置を取ることもなく、「誤爆」というアメリカ側の言い分を事実上受け入れたのも同然でした。

また2001年、ブッシュ(子)政権が誕生したすぐあと、四月に海南島沖合の排他的経済水域上で、アメリカ海軍の偵察機EP-3Eと人民解放軍海軍の戦闘機J8Ⅱが空中衝突しました。所謂「海南島事件」で、中国の戦闘機J8Ⅱは墜落してパイロットが行方不明になり、アメリカの偵察機EP-3Eは海南島に不時着し、乗員が中国側に身柄を拘束されました。

 

事件が起きたとき、私はたまたまアメリカに取材で滞在していました。それで、クリントン政権後半に中国担当だった旧知の元国務省高官に会って、「こういうときはどうなるんだい」と聞いてみたのです。元高官は民主党幹部らしく対中融和派です。それもあってか、「これはアメリカに非があるのが明白なのに、ブッシュは中国を非難して米中関係を壊そうとしている」と憤慨していました。

 

「なぜそう言えるの」と聞き返すと、「中国政策を引き継いだ後任が打ち明けたから、間違いない」と怒りが収まらない。

 

要するに事件のあと、江沢民のほうがむしろ下手に出て、盛んにホットラインでブッシュに何度も電話をかけてくる。それに対してブッシュは「そんな電話、取るな」と電話に出ることを拒絶する。「ここで変に妥協しちゃいかん」と、共和党はそういうところは徹底しているわけです。「乗務員と機体が捕捉されて、中国が帰すことを約束するまでは電話協議に応じない」と、電話を取らないのも一種の意思表示になるからです。

 

とにかく強硬な態度を絶対に崩さない。結局、水面下の交渉を経て、5月24日に機体返還の合意が発表され、乗員も釈放され、事件は決着しました。アメリカは謝罪の意を表明する二通の書簡を送って、江沢民の面子を立てましたが、ハイテクが詰まった機体を無事に回収することが重要で、要求はほぼ全面的に通ったわけです。

次ページ変動相場制になると中国経済は崩壊する

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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