(※写真はイメージです/PIXTA)

あなたがある日「老い」を感じてしまっても、世間から「老いた人」と思われても、老いはいきなりあなたからすべてを奪ったりしません。ゆっくりゆっくり下り坂をおりていくのです。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

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放っておけば「老い」は加速する

■老いは、ゆっくり始まるから大丈夫

 

去年2021年11月13日に精神科医の長谷川和夫さんが亡くなりました。92歳でした。

 

長谷川さんは、認知症の診断に必要な検査方法を開発した方です。「長谷川式簡易知能スケール」といわれています。発表されたのは1974年ですが、現在でも認知症の診断では使用されており、認知症の画像診断とともに医療や福祉の判断材料となっているものです。

 

長谷川さんは日本でいちばんの認知症の専門家とさえいえる認知症一筋に研究されてきた方です。その長谷川さんが、2017年に自分は認知症になっていると、ある講演会で発表しました。

 

80代後半ですから物忘れはあります。でも、認知症の専門家です。「これはただの物忘れではない」と感じて、きちんと検査を受けました。その結果、認知症と判明したため公表したのです。

 

長谷川さんは、自分が認知症となったことで、これで認知症の最終研究ができると考えたようです。認知症になった人がどのようになるか実際に体験できるのですから。その体験を講演会で話をしたり、本を書いたりしていました。

 

また、デイサービスに通所してみて、ショートステイを利用しての感想も伝えています。

 

デイサービスで入浴サービスを受けたら、スタッフが身体を洗ってくれたりして、王侯貴族になった気分だった、利用者さんたちとも仲良くなったと書いています。でも、行きたくない日もあると正直にあかし、それでも、「家内が少しでもラクになるなら」と考え直して出かけたそうです。

 

長谷川さんは介護サービスを受けるようになっても自分から発信する力がありました。人を観察する能力、妻をいたわるやさしさも持っていました。はたから見ると認知症には見えなかったかもしれません。

 

認知症と診断されても、すぐに何もかもできなくなるわけではないのです。長谷川さんが認知症と診断されたのは、80代後半です。その年になると、検査すればすべての人に脳の萎縮があると思います。その中でも、ゆっくり認知症が進行する人たちが多いのです。

 

老いも同じです。あなたがある日「老い」を感じてしまっても、世間から「老いた人」と思われても、老いはいきなりあなたからすべてを奪ったりしません。ゆっくりゆっくり下り坂をおりていくのです。

 

かりに80代で認知症になるとしても、あなたらしく生活するために70代を大事にしてほしいです。放っておけば「老い」は加速します。早めに枯れないように、自分に水をあげていきましょう。

 

その水は好奇心かもしれません。長谷川和夫さんのように「デイサービスはどんなところかな」となんでも見てやろうという精神の人は、たしかに強いのだと思います。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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