習近平の野望である台湾併合の経済的意味も重大です。中国共産党は半導体をなんとか国産化したいのですが、その能力はいまだありません。一方、台湾は圧倒的に優れた生産力を有しています。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

中台で争う「中華民国」本家論争の意味

■台湾側の不思議な論理

 

一方で台湾のほうは「ひとつの中国」についてどういうスタンスなのでしょうか。じつは台湾も共産党と似たような論理を持っているのです。蔣介石は確かに大陸から逃げてきましたが、中国の正当な国は中華民国であり、台湾は中華民国であると主張しています。民主進歩党のほうは本音では台湾共和国でいいと考えていますが、建前上は中華民国を継承しているわけです。だから「台湾共和国」とは言いません。

 

蔣介石以降の台湾の政権、中華民国は自国地図を描くと、中国本土もすべて版図になっています。チベットも新疆ウイグル自治区も、満洲も内モンゴルも中華民国です。台湾は中華民国台湾省でしかありません。中華民国自身がフィクションの上に成り立っている。実態は全然それを反映していませんが……。

 

中国共産党政権は、中華民国の言っている「ひとつの中国」には同意しているわけです。だから中国共産党の主張は「中国はひとつなんだから我々は話し合えばいい。あんたらには台湾省として、香港のような一国二制度を認めるから、経済のほうは自由にしてよろしい。その代わり政治や軍事は全部本土に入りなさい」ということです。

 

中華人民共和国には前述のように全国人民代表大会(全人代)があります。日本の国会に相当するとマスコミは定義しますが、ほんとうに何を書いてるんだと思います。中国共産党が旗を振って、言いなりになる人民代表が会議を年に一回開いているだけです。そこで議題になる政策や方針は、ことごとく共産党の中央で決めてしまっている。それに対して同意を得るだけの機関です。一、二票の反対がある場合はありますが、大した問題ではありません。壮大な“フィクション”をやっているわけです。

 

ところが、その全国人民代表大会に中華人民共和国国内の国民党ですが、国民党代表がいます。台湾の国民党は本家として認めないでしょうが、大陸に国民党はれっきとしてあるということになっている。

 

この共産中国での国民党代表とは、中国共産党が勝手に人を選んでいるので名ばかりです。しかし、いまは民進党の蔡英文さんが総統なので現実的ではありませんが、もし台湾が国民党政権であったなら、逆に全人代に代表を送り込んで「共産党こそおかしい。全人代の代表は普通選挙で選ぶべきだ。我が国民党こそが中国全体の平穏を獲得できるのだ」と主張すればいい。選挙で人民の代表が選ばれるということであれば、ある意味で政権を奪取するチャンスになります。

 

以前、李登輝さんが台湾総統時、国民党の重鎮と会ったときに、同じようなことを私が提案しました。

 

「あんたら、何も臆することはないじゃないか。『ひとつの中国でいく。話し合いに応じる』と北京が盛んに言ってくるなら、逆手にとって自由選挙を提案すればいい。『国民党こそ近代中国をつくった政党である。正統性のある政党は国民党だ。共産党は国民党の分派でしかない。自由選挙をやって決着をつけよう』と、開き直って言ったらどうだ」と。

 

すると「それは現実的じゃありません。そんなの相手にされませんから」と返されました。

 

確かに、権力はすべて銃口から生まれるというのが共産党独裁の中国の現実ですから、民主主義を求めても無駄ということはわかります。でも、「ひとつの中国」というフィクションを共産党と国民党は共有しているのですから、それにつけ込んで揺さぶってみればいい、民主化を求める中国世論を喚起する宣伝効果だって期待できると私は思う。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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