(※写真はイメージです/PIXTA)

70代半ばの女性が娘さんに付き添われて受診したときのこと。娘さんは「父が死んでからひとり暮らしで心配」「最近、料理をしなくなりました」「元気がありません」「認知症ではないですか」と心配ごとが次々に出てきます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

臓器も脳も肌もすべて経年劣化していく

■病気を気にするより、「残存機能」を大事にするほうが大切

 

高齢とともに、病気のひとつやふたつ持つ人も多いでしょう。65歳を過ぎれば、3人にひとりは高血圧だといわれ、薬を飲んでいる方も多くいます。脂質異常症の方も多く、コレステロール値を下げるための薬を飲んでいる方も多くいます。なんらかの病気を持つ人が少しずつ増えていきます。

 

たとえば、リウマチ、骨粗しょう症、脊椎管狭窄症、脳卒中、心疾患、そして認知症。徐々に症状が出てきて進行する場合と、脳梗塞のように突然の発症という場合もあります。

 

私たちの寿命は延びました。でも、身体は同じ人間の身体です。少々昔よりは頑丈になったかもしれませんが、臓器も脳も肌もすべて経年劣化していくものです。いくらアンチエイジングを目指しても、身体の劣化を多少遅らせることはできても、止める方法は見つかりません。

 

私は、アンチエイジングを否定はしません。いつまでも若々しい姿をした高齢者を見るとこちらまで元気になりますし、いつまでも美しくありたいという欲を持てる人は、その通り若々しいと思っています。

 

高齢になっても欲は必要です。

 

まだ病気になる前から、「病気になったらどうしよう」と考えるのではなく、病気になるまでは元気に生きてやるという欲を持ってほしいと思います。

 

脳梗塞やリウマチ、なんらかの病気を持ってしまったという方もいらっしゃるでしょう。そういう方も、病気のことは医者と相談しながら養生し、まだ残る残存機能を生かして自分にできることをやっていただきたいと思います。

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、全身の筋肉が動かなくなり、最後は呼吸も機械に頼り、まぶたも動かなくなる難病です。しかし、その症状も徐々に進行します。進行しながらも、いろいろなテクノロジーを利用してコミュニケーションをとっている方、パソコンで発信している方が多くなってきました。その方たちを支えているのも、生きてやろうという欲だと思います。

 

高齢者は悟って静かに死んでいくような価値観もありますが、病気を持ってじたばたしながらも残存機能を生かして生き抜くこともまた必要なことです。

 

認知症を怖がる人が多いでしょう。ほかの本でもたくさん書いていますが、認知症になっても、できることは多いのです。症状は徐々に進むものです。認知症の方でも、見事な盆栽を育てている方、絵手紙作品をつくって個展を開いた方、そんな例はいっぱいあります。

 

病気は仕方ないとあきらめ、残存機能を生かして、人生を楽しもうという欲を持っていきましょう。

 

あきらめることはあきらめ、できることはやっていく、そういう気持ちがいちばん大事なのです。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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