中国の科学者に都合のいいデータを提供
■WHO報告書への反論
以下、WHO報告書に対する反論を紹介する。
▶WIVは多くの問題を抱えていた
中国国営メディアによると、WIVの当局者は「WIVでは新型コロナウイルスについて接触も保存も研究もしておらず、同ウイルスの設計も作製物も流出していない」と述べている。また、WIVが2018年に危険度の高い病原体を扱える「BSL4施設」を開設して以来、病原体の流出やヒトへの感染は一切起こっていないとも主張している。
しかし、米国務省の2021年1月の報告書によると、WIVはコロナウイルスを扱っている。米国の専門家が2017年と2018年にWIVを訪れ、国際的に定められた標準を下回る安全基準で、感染性のコウモリ由来のコロナウイルスが扱われている危険性を警告していた。
さらにWIVではコロナウイルスの「機能獲得型変異」の研究がおこなわれていたが、これはとくに大きな問題とされた。理論的には、「機能獲得型変異」研究により、ウイルスが本来の宿主(例えばコウモリ)以外の新たな生物種(例えば人間)に感染する能力を得る可能性がある。
なお、米連邦政府が2014年に定めた定義において「機能獲得型変異」研究とは「病原性や伝染性を高めることで、感染因子が病気を引き起こす能力を高める」研究としている。
WHO報告書は、中国政府の主張を受け入れ、<2019年12月までの数ヶ月から数週間にわたり、新型コロナと一致する呼吸器系疾患の報告はなかった。>と記述している。しかし、米国務省は2021年1月の報告書で〈新型コロナ発生事例が確認される以前の2019年秋に、WIVの複数の研究者が、新型コロナと通常の季節性疾患の双方にあてはまる症状を示す病気になったと確信をもてる根拠が存在する。〉と指摘している。
WIVの著名なコロナウイルスの研究者で「バットウーマン(コウモリ女)」と呼ばれている石正麗氏は「WIVに解放軍とのつながりはない」と述べている。しかし、米国務省の報告書は
<WIVは何年もの間、出版や秘密のプロジェクトで解放軍と協力してきた。WIVは、新型コロナに類似の各種ウイルスに関する研究について透明性を欠き、説明が首尾一貫していない。>
とも記している。
また、米国務省の報告書は<WIVの説明によると、重要なウイルスデータベースは、セキュリティ上の理由でネットから切り離されて閲覧できない。>と記述している。
米国務省の主張は広範な情報活動に基づいたものであり、バイデン政権はこれらの指摘の大半を公式に受け入れた。
バイデン政権でコロナ関連の広報を担当するアンソニー・ファウチ氏でさえ、研究所からの流出の可能性を認めた。彼は以前、新型コロナの発生源がWIVだという考えを一蹴してきた。彼は、米疾病対策センター(CDC)前所長のロバート・レッドフィールド氏の指摘にも反論をしてきた。
レッドフィールド氏の指摘とは「武漢の病原体の発生源としてもっとも可能性が高いのは研究所だと、現在も考えている」「この種の研究では、研究所職員がウイルスに感染することは珍しくない」というものだ。
▶WHO調査団のメンバーの問題
WHOの調査団が2021年、武漢を訪れたが、中国当局は有益な情報をほとんど提供しなかった。米国など14ヶ国の政府は、WHOの調査が「大幅に遅れ、完全なオリジナル・データやサンプルにアクセスできなかった」という批判的な声明を発表した。
WHOの調査報告が中国寄りで客観性に疑問が残る内容だったことは驚くべきことではない。なぜなら、中国政府の科学者たちが自分たちに都合のいいデータのみを提供し、それをもとに作られたのがWHO報告書だからだ。
また、WHOの調査団には利益相反の問題がある。調査団メンバーである英国人感染症学者ピーター・ダスザック氏は、長年にわたってWIVに協力しており、「機能獲得型変異」研究を支援してきた。彼は2020年2月に「新型コロナの発生源が自然界ではないことを示唆する陰謀論」を非難する声明をまとめ、医学誌『ランセット』に掲載するのを支援した。
もうひとりの調査団メンバーであるウイルス学者マリオン・クープマンズ氏は、WIVにおける「機能獲得型変異」研究を実施したオランダ・チームの責任者であり、パンデミックの発生源が研究所だった場合、深刻な非難を受ける可能性がある人物だ。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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