(※写真はイメージです/PIXTA)

実際に自衛官時代に経験した化学兵器サリンのこと、ウイルス兵器と関係のある高病原性鳥インフルエンザのこと、さらに新型コロナについては、実際に起きた事例であり、今後も起こりうる深刻な事態だといいます。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

平時に起こった「地下鉄サリン事件」

新型コロナウイルス(以後、新型コロナ)が2020年以降2年にわたり、世界中で猛威を振るっている。これを「ウイルス兵器を使用したウイルス戦(Virus Warfare)だ」と主張する人もいるが、否定する専門家は多い。いずれにしても、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)は、私が現役の自衛官のときに恐れていた事態であることは確かだ。

 

軍事の世界では大量破壊兵器またはNBC(Nuclear Biological Chemical)兵器という専門用語があるが、これは核兵器、生物兵器、化学兵器のことだ。

 

本稿では、私が実際に経験した化学兵器サリンのこと、ウイルス兵器と関係のある高病原性鳥インフルエンザのこと、新型コロナの起源に関する論戦について記述する。

 

新型コロナの起源については、①新型コロナはウイルス兵器として開発されたものなのか? ②新型コロナは自然由来のものか、それとも人工的に作られたものなのか? ③新型コロナは武漢ウイルス研究所から流出したものではないのか? 以上3点に焦点をあてて記述する。

 

ここで記述する内容は、実際に起きた事例であり、今後も起こりうる深刻な事態であることを認識してもらいたい。


 
■化学戦としての地下鉄サリン事件の思い出

 

カルト宗教集団のオウム真理教が1995年3月20日、東京の中枢部において「地下鉄サリン事件」という未曾有の無差別テロ事件を引き起こした。神経ガスであるサリンは強い殺傷能力をもつ化学兵器であり、この事件で死者14人、負傷者約6300人という大きな被害が出たが、未だに後遺症に苦しめられている人たちもいる。

 

この事件は、世界で類をみない大都市における無差別テロとして世界を震撼させたが、私はこの事件に巻きこまれて、サリンの被害者になってしまった。化学攻撃は戦時におこなわれるものだと思っていたが、まさか平時におこなわれるとは、私にとってまさに驚天動地の大事件であった。

 

オウム真理教は、教祖の麻原彰晃の命令により化学兵器であるサリンを製造し、地下鉄の電車内でそれを散布し、多くの被害者が出た。サリンを吸いこむと、瞳孔が縮瞳(瞳が小さくなること)し、呼吸が困難になり、やがて死んでしまう。

 

私の場合、地下鉄丸ノ内線の霞ケ関駅で、サリンに汚染された停車中の電車内を歩いたためにサリンを吸いこんでしまった。まさか、その電車がサリンに汚染されているなど知るよしもなかった。

 

幸いにも吸いこんだサリンが微量で命に別状がなく、勤務地である防衛省に出勤し勤務をしていた。

 

ところがテレビのニュースで、霞ケ関駅などで多くの死傷者が出ていて、サリンが原因かもしれないという報道を聞き驚愕した。我が身にはサリンを吸収した際の症状が出ていた。瞳孔が収縮し、胸のあたりが重く感じ、呼吸にも違和感がある状況で、自衛隊中央病院に入院する羽目になってしまった。

 

同病院は、自衛隊の病院のなかでもっとも充実した人員と設備を誇り、化学兵器に知見を有する医官もいたために、サリン患者への対処は適切になされた。これらの医官のなかには米軍の医療機関で化学兵器や生物兵器の研修を受けた者がいて、彼らがサリン対処の中核として活躍してくれた。日ごろからの教育訓練や留学の重要性を痛感した次第だ。

 

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