中国の統一戦線工作の目的は、中共を支持する人をできるだけ増やし、反対する人を減らすことです。その主な狙いは、中共の支配を確実にし、中共の権力独占が他の追随を許さないことを保証することです。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

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影響工作が有名になったヒラリー落選工作

■米大統領選挙に影響を及ぼした中央統戦部などの工作

 

2020年の米大統領選挙に際して、ロシアやイランなどが大量のメール送信やSNS(ツイッター、フェイスブック、ユーチューブなど) に偽情報を流す等、影響工作(InfluenceOperation)がなされた。同年11月5日付の『ニューズウィーク』誌によると、中央統戦部などの中国関連の組織も工作に関わったとのことだ。

 

習総書記が「魔法の武器」と呼ぶ中央統戦部は、中国の国内外で情報戦、とくに影響工作をおこなっている。影響工作は、SNSなどを通じてプロパガンダ、偽情報、誤情報を大規模に拡散することにより、人間の認知領域に影響を及ぼし、その人の言動をコントロールする工作のことだ。

 

この影響工作が一躍有名になったのは、2016年の米大統領選挙においてロシアがヒラリー・クリントン氏を落選させるためにおこなった工作が発端だ。

 

米国の情報機関と密接に連携している「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」の分析によると、2020年米大統領選挙における中国の工作は、「米国社会の分断を深めるという中国当局の政治的目的のために、中国にルーツをもつ個人や組織がおこなった多面的な不正活動」の一環だという。

 

つまり、中国による工作の目的は、特定の陣営に露骨に加担したり、特定の主張を支持したりするというよりも、米国内の政策形成に影響を及ぼし、中国の利益に反する政治家などに圧力をかけ、米国社会の亀裂を深めることにある。

 

ASPIの分析によると、大統領選挙に関連した工作は中央統戦部の活動のほんの一部であり、中国共産党にルーツをもつ約600の組織が米国社会に浸透し、様々な活動を実施している。

 

中央統戦部の活動は、日本でもなされていることを我々は認識すべきだ。中央統戦部の関与する国内外での活動資金は2019年実績で26億ドルを超え、6億ドル近くが海外在住の中国人社会と外国人にむけた活動に充てられている。その総額は中国外交部の予算を上回るという。その一部の工作資金は日本にも投入されている。

 

米大統領選挙を通じて米国社会の分断はさらに深くなり、民主主義国のリーダーとしての米国の信用は失墜した。中国は、統一戦線工作が効果的であったと満足しているであろう。

 

渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監

 

 

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